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(京楽と浮竹)
けほけほという小さい咽たような咳に、見つめていた本から視線を上げる。
立っている自分から表情は見えないが、咳をしている姿から想像できる。
これはかなり苦しそうだなぁ、と。
「だいじょぶ?少し休んでれば?」
左手に本を持たせて、空いた右手で彼の背中を優しく擦る。
当の彼はやんわりと微笑みながら大丈夫だと言っている割に、咳は止まることなく彼の口からけほけほと吐き出されていく。
終いにはけほけほ、からげほげほ、に変わって、激しく咽る。
慌てた京楽が背中をとんとんと叩きながら声をかけると、やはり浮竹はにこりと笑って「大丈夫だ」というだけだった。青白い顔をして隠しているつもりなのかと半ば呆れの溜息を零す。
持病の事もあるのだろうが、何しろここは酷く埃っぽい。浮竹にとっては体に毒なのだろう。目ぼしい資料だけ隊舎に持って帰ればいいものを、なのに彼はここから動く気はないようだった。
しかし、目ぼしい資料といってもそれだけでも膨大な量がある。こっそり持ち帰るには少し難しい量で、隊首会を仮病で休んでまでここにいるのだ。見つかったら何を言われるかわからない。だからこそこの埃だらけの図書室で資料を漁っているのだが。
「あのさ、真面目に言うけど、お前本当に大丈夫なわけ?今にも死にそうな顔してるよ」
「失礼だな。俺は全然平気だよ」
なおも疑り深い目で浮竹を見つめる京楽だったが、再び溜息をつくと彼の背中から手を離し、立ち上がる。それから先程の本を見つけた棚の位置に戻る。
もう何冊見たかわからない。そろそろなんでこんな量の本を探して読んでるんだっけ、と当初の目的も少々曖昧になってきた頃である。
分厚い本を一冊二冊、棚から抜いてページを開く。字以外のものは書かれていない。これは何かの哲学書か何かかと思いながら本棚に手を掛ける。
「っがはっ!」
びくりと肩を震わせた後に、素早く後ろを振り向く。白髪の男が開いた本の上に蹲っている。持っていたよくわからない哲学書を地面にぞんざいに落とし、蹲る姿に駆け寄った。
「ちょっと何、どしたの」
「げほっ、埃、吸い、こっ、げほっげほっ」
彼にしては珍しく、涙目になりながら途切れ途切れに訴える。口元を押さえながら苦しそうに咽る浮竹を支えながら、京楽も珍しく困惑した表情で辺りを見回す。
普段は周りに人がいたから四番隊に報告できたが、今は誰もいない。自分では何もできない。こんな状態の浮竹をここに一人で置くこともできない。
「えっ、ちょっと、えぇ~…」
対応に困る。先程よりは収まったが、相変わらず頻りに咳をし続ける背中を撫でながら、どうしようと考える。これは一旦隊舎に戻したほうが良いだろうか。
そうだ、そうしよう。何も今日中に調べ上げれば良いなんて誰も言ってない。このままではこの病弱な男は本当に危なくなってしまう。
肩に掛けていた羽織りを浮竹に被せて、そのままひょいと抱え上げる。
「…うわ、軽い。お前これ、生きてるの不思議じゃない?」
「え、京楽、俺はだいじょう、けほっ」
「いいからいいから。今日はもうお開きにしようよ」
降ろしてくれ、という弱々しい抗議を無視して、両手で彼を抱えたまま図書室を出る。
埃っぽい空気は吹かれた風に消され、漸く京楽も一息つく。外の空気のおかげか、先程までの激しい咳は息を潜め、少しばかりは落ち着いたようだ。それでも顔色の悪さは変わらず、しかし表情は笑っていた。
そんな浮竹を見て、京楽は小さく顔を顰めた。
「うん、さっきよりは気分が良くなったかな」
「…そう、そりゃ良かった」
急に視界がゆっくりと動き始めた。この男が歩を進め始めたのだ。そういえば、まだ抱えられたままだったな、とふと思い出す。
真っ直ぐ前を見ながら歩く自分を抱えている男を見ながら、浮竹は小さく首を傾げた。
何か怒っているのか?
どうにも不機嫌に見える。基本的に彼は滅多に怒る事などない温厚な人間だ。その分、表情と態度に感情が現れ出るために、分かり易い。
今の彼のこの態度、どうにもおかしい。いつもの彼ならば「それなら良かった」と笑って、大人しく降ろしてくれるのに。殆ど無言で歩き続けるなんて。
「……お前ね」
浮竹に視線を合わせないまま、京楽が口を開く。
「あんまり強がってるとほんとに死んじゃうよ」
「俺は…別に強がっているつもりは」
「大丈夫じゃないくせにさ」
そこまで言うと、口を閉じる。
少し癇に障る言い方だったが、それ所謂彼が本気で自分の心配をしてくれていたということ。
別に強がっている訳ではなかった。ただ、激しい咳など自分には良くあることなのだ。いちいち気にするほどのことでもないだろうと言う耐性がついてしまい、無意識のうちにそう答えるようになっていただけだ。
「……ありがとう」
怒るほど心配してくれていた親友に笑いかける。
当の彼は「……どういたしまして」と小さく呟いた。
――――――――
京浮って可愛いよね
可愛いおっさんって正義だよね
無題
そんな叫び声が聞こえたのと、背中に強い衝撃を感じたのはほぼ同時の事で。
飛び蹴りをされるなど、全くもって予想外だったために普通に前へつんのめって床に頭を思い切りぶつけた。
勢い良く振り返って自身に飛び蹴りを食らわした張本人を睨みつける。その小さい身体の何処にそんな力を秘めているのか分からなかったが、そんなことは今はどうでもいい。本当に地味に痛かった。背中も頭も。
「ってぇな!てめぇ何しやがる!」
「黙れ!貴様、よもや今日が何の日か知らなかった訳ではあるまい!」
憤慨しながら此方を睨みつけるルキアの姿に、流石に少したじろぐ。彼女がここまで憤る事など滅多にない。長年一緒に居た中で、殆ど見た事が無い。
それほどに彼女を怒らせる事をしたのだ、自分は。
そう考えても、恋次からしてみればそんな事見当もつかない。昨日会った時は怒っている様子は無かったし、寧ろ嬉しそうにも見えた。今日は会うのがこれで初めてだから、怒らせるタイミングなど見つからない。
頭をぼりぼりと掻きながら、何かあったかと思いだそうとする。
「………どうやら、本当に知らなかったようだな、お前という奴は…」
怒りを通り越して呆れたようだ。大きく溜息をついてやれやれと頭を振る。
今日といっても、もう既に空は暗く、そろそろ今日という日も終わる時刻が近付いている。
「なんだよ、今日何かあったのか?」
「私の器があと少しでも小さかったらお前の首をプレゼントしていたくらいには重要な日だ」
「こえぇよ!なんて物騒な事考えてんだお前!」
取り敢えず、ルキアの器がでかくてよかった、恋次は自分の運の良さに感謝した。
それと同時に、今の台詞に引っかかる部分を見つける。
「……プレゼント?誰に?」
「決まっているだろう。白哉兄様にだ」
「………隊長?」
「今日は、麗しき兄様の祝福すべき生誕の日だ!」
ルキアが手を合わせて、まるで自分の事のように嬉しそうに笑う。
対して恋次は、思考が追いついていないような顔つきで沈黙を貫いた後、みるみる顔色が蒼白になって行く。
「な、んっ、俺知らねぇぞそんなの!!」
「副隊長であるお前が知らないとは。恥ずかしいぞ恋次!」
「大体っ、隊長は自分の事なんて話さねぇ人だし!俺が知らなくてもおかしくねぇし!」
「浮竹隊長や一護は知っていたぞ」
「そりゃ浮竹隊長はしょうがな………って一護知ってんのかよ?!」
「『白哉によろしく』と言っていたからな」
「それって知ってたって言っていいのかよ……偶々じゃねぇのかよ…」
他の人間よりは一緒に居る事が多く、だから自分しか知らない事だって沢山あった。
それなのに、一番肝心なところを分かっていなかった自分に腹が立った。
一緒に居たのだから教えてくれても良かったのに、と小さく文句を垂れるのは忘れずに。
今日はもう白哉とは早々に別れてしまったから、祝いの言葉を言うのは明日だろう。一日くらい遅れても平気だろうと思う反面、少しばかり反省もする。何故今日の周りの雰囲気で気付かなかったのか。
取り敢えず、何かプレゼントを用意した方が良いだろうかなどと考えてみる。しかし貴族のあの人が欲しいものなど見当もつかないので、考える事を止めた。
「悪かったなルキア、明日ちゃんと祝うわ」
「一日遅れだが…まあ良いだろう。兄様もきっとお喜びになるぞ!」
(そうかなぁ)
自身の隊の無表情な隊長を思い浮かべながら、未だにひりひりと痛む足蹴にされた背中を掌でさすった。
――――――――
滑り込みできてない兄様誕生日おめでとう!(祝ってない
気が向いたら続きがあるような無いような
コンビニ物語 B(一護と雨竜)
コンビニで適当に雑誌を読んで、お菓子コーナーをぶらついて、明日の昼飯でも買っとくかなぁと様々なパンが並べられているコーナーに近付いたり、適当に適当に一護は時間を潰していた。
待ち人はまだ来ない。今日の部活はどうしても出なくてはいけないなんかの集まりがあったらしく、三十分くらい待ってるなら一緒に帰れるよと言われたものの、正直待つのは頗る面倒くさい。しかし「待てなければ別に待って無くても良いし」と先に言われてしまい、何より此方から「一緒に帰ろう」と誘った為に、待つ事なんてできるかと早々に帰るのも相手の気分を害するだけでなく、自分が酷く間抜けに見えてしまう。
学校の中でぼーっとして過ごすのも飽きてしまい、教室に置きっ放しにされていた相手の鞄にメモを貼り付けて一護は学校を出た。
三十分などと言いながら、時計の針は彼が待っていた時間から既に四十分過ぎていた。
狭いコンビニでは見るものや眺めるものも限られており、お菓子コーナーの前を歩くのはこれで五回目となった。
別に店員に怪しまれている訳ではないが、こうも長時間いる割には何も買わず同じところをぐるぐると回り続けるオレンジ色の髪の高校生。怪しまれても不思議ではないと本人は思っていた。
早く来いよアイツ。心の中で待ち人を非難する。
アイスボックスの前で買う気も無いのに商品を眺めていると、杖をついた老人がよろよろしながら入ってくる。一護は何とはなしにそれを見た。
老人は何か掴めるものを探しているのか、両手を空中で彷徨わせていた。時折杖で障害物がないかどうか、地面を叩くなどの動作を行っている。目があまり見えていないのだと、すぐに分かった。
助けた方が良いだろうか。いや、余計な事をするなと言われてしまうかもしれない。見つめながら悩んでいると、老人は一冊の雑誌を手に取り、再び歩き出す。如何やら目当ての商品はすぐに手に取る事が出来たようであり、いらぬ心配だったかと小さく安堵の息を漏らした。
老人はよろよろとレジに並ぶ。
その時、高校生くらいだろうか、同じ学校の生徒ではない事は着ている制服が教えてくれる。いかにも「不良です」と主張するような風貌で(一護も人の事は言えないのだが)、一言呟く。
「邪魔だよジジィ」
老人を押し退けてレジに割り込んだ。老人は押されて後ろによろめいたが、倒れはしなかった。
一護の眉間の皺が深くなる。高校生にもなってマナーも守れないのか、そう思うと自然に頭に血が上ってしまう。こんなに短気なつもりはなかったのだが。
ついつい一歩出てしまった足を止めようとせず、そのまま不良に向かって歩き出す。
「止めておけ、黒崎」
着ていたコートのフードを掴まれ、ぐっ動きを止められる。
若干の首の絞まる感覚と、耳に聞こえた待ち人の声に我に返る。
首だけを後ろに動かすと、口元をマフラーで隠した黒髪の青年と目が合う。眼鏡を上げる仕草をした後に、ふぅと小さく息を付いて一護のフードから指を離した。
「……石田」
「こんな所で下らない事しようとするな」
彼が止めてくれなかったら、きっと思い切り殴りとばしていただろう。感謝をしたいところだが、どうにも彼の言葉には少しばかり棘が多い、なんとなくむっとした。
「下らないのはアイツの存在だろ」
「君でもそんな事言う事があるのか。確かにそうだとしても問題を起こす理由にはならないね」
目の前の青年を睨んでもしょうがない事は分かっている。でも、何か腑に落ちなくて苛々した。
一護の待ち人であった石田雨竜は、彼のそんな心情を知ってか知らずか、再び溜息をついた。「何でもいいけど帰るなら早く帰るよ」と、さっさとコンビニから出てしまう。不満げな顔を露わにしながらも、先程の不良を一瞥して雨竜の後ろに続いた。
二人が出てすぐに、その不良も扉を開けて外に出てきた。
何事も無かったかのように歩く憎たらしい背中を睨みつけながら、ふと雨竜が手で雪玉を握っているのが眼の端に映った。手袋もせずに冷たいだろうと思う前に、彼の行動の意味がわからず首を傾げる。
雪遊びが好きなのか、そんな思考に辿り着きそうになった時、突然掌に雪玉を握らされ、一護はその冷たさに短く悲鳴を上げる。何のつもりだと雨竜を睨むと、本人は何でも無いような顔でまだそう遠くへ行っていない不良の後姿を指差した。
「当ててやれ」
「……は、」
「コンビニではするなと言っただけだし、外でなら良いんじゃないか?」
バレなければ、と少し無責任な台詞の後に小さく付け足す。
雪玉を見、眼鏡の青年を見、彼の口元が微かに上がる。
「良いんだな?」
「君の好きなようにしなよ」
「チャンスは一回だけか?」
「冷たくてもう作れないよ。外したら埋める」
雨竜の言葉が終わるや否や、一護は大きく振りかぶり、渾身の力を出して雪玉を投げた。漫画のような速球がこれまた漫画のように不良の頭に見事に命中し、遠く離れた二人にもドパンという派手な音が聞こえてきた位の衝撃だったようだ。不良は前につんのめった挙句滑ってうつ伏せに転んでいた。
当たったのを確認した後に、二人は同時に不良とは反対方向に走った。合図を決めていた訳でもないのに、同時に、それはもうぴったりと息の合ったタイミングで。
走ったままに、互いに目を合わせる。
どちらからともなく出された掌を、パチンという音と共に交わした。
――――――――
ちょっとだけ実話(おじいちゃんの前に若者が割り込んだ事
ノリの良い雨竜が好きです
一護と雨竜は正反対に見えながらもいざとなった時の行動がめちゃくちゃ息ぴったりだと良い。萌える
仲良しなイチウリが好きだ!
二人(一←織)
呼ぶ、という表現は生温い。それは明らかに叫ぶ、というような声量で。
生徒用玄関を出て家に向かって歩き出した矢先、後ろから聞き慣れた声で名前を叫ばれ、一護は目を丸くしながら足を止めて振り返った。
その声に反応したのはどうやら彼だけではないらしく、周りに点々と居る何人かの生徒も共に玄関に目線を向けていた。何人かは一護を振り返っていたけれど。
生徒の視線を一身に集めている叫んだ張本人は、注目を浴びて恥ずかしがるでも無意識に叫んで慌てたという事も無く、満面の笑顔で彼に駆け寄った。長い髪を靡かせながら小走りに学校から出てきた人物に、別の意味で視線が集まる。
井上織姫、だ。
「井上?」
「黒崎くんっ、今帰り?お家の用事とか?」
若干息を切らしながらも、無垢な笑顔は崩れないままに口を開く。二人は生徒の視線を集めていた。
織姫の問いに、一護は緩く首を振った。別に寄り道をする場所も無いし、まっすぐ家に帰る以外他の選択肢が無いのだ。きっと、いつもは啓吾やら水色と共に帰宅しているのに今日はそうでないため、なにか用事でもあるのかと思われたのだろう。
二人が居ないのは偶然で、啓吾は居残りで(待ってやるのは面倒くさい)、水色は如何やらデートの約束があるらしい(良くあることだ)。
一護は首を傾げながら「何か用か?」と織姫を見ると、彼女は一瞬キョトンとした顔をした後、思いだしたように口籠る。井上にしては珍しい、と小さくそう思っていると、目の前の少女が呟いた。
「…あの、黒崎くん」
「ん?どした?」
「あっ、あたし……今から、あたしと付き合って下さいっ!!」
先程一護の名を呼んだ時と同じような大音量で、再び彼女は叫んだ。一護には勿論、周りに居る生徒たちの耳にもしっかり届いたその『告白』とも呼べる一言は、静かな午後の空に木霊した。
流石の一護も言葉に詰まったのか、「ん?」という顔で彼女を見つめる。
そのしんとした空気を訝しげに思ったのか、叫んだ本人も自分の言葉を頭の中で繰り返した。
突然、彼女の顔が真っ赤に染まる。
「あっ!!ち、違うの!間違ったの!そうゆうことじゃ無くてあたしはただ黒崎くんが暇ならこれから一緒にケーキ食べに行くの付き合って欲しいなって事であたしと付き合ってじゃ無くてあたしに付き合ってって事でごめんね黒崎くんあたしってばそんなごめんね忘れて!」
パニックに陥って今にも泣きそうになる織姫を見て、年中仏頂面の彼が吹き出した。
落ち着けと笑いながら言うと、織姫はそれはもう恥ずかしそうに顔を俯かせてしまう。
「いいぜ、どうせ俺暇だしな」
「ほっ、ホント?!」
真っ赤で破裂しそうだった彼女の顔は、一護の了承の言葉一つで元通りの笑顔に戻る。自分の単純さを分かっていても、織姫は嬉しいという感情を隠そうとしなかった。
彼の腕を引っ張って、喜びを前面に押し出した表情で早く行こうと急かす織姫と、苦笑を交えながらも彼女を拒む事を決してしない一護。
二人は時々何かを話して、小さく笑いながら校門を通り過ぎる。隣に並んで歩いて、ついでに織姫が一護の腕を掴んでいるものだから、一目見たら普通の『コイビト』に見えない事も無い。
あぁ……、デートの約束か
一部始終を見ていた生徒達の思考は見事なくらいに一致した。
翌日の事。
「一護の裏切り者おおおおおおおおおおお!!!」
「だからっ、誤解だっつってんだろ!!」
「何が?!何が誤解?!俺が居残りでひぃひぃ悲しんでいた時にお前はまさかデ・ェ・ト!だなんて!!しかも相手は井上さん!!お前は硬派で俺の友だと思っていたのにッ……!!」
お前なんて絶交だぁぁーーー!!!などと叫びながら、演技くさい走り方で啓吾は一護の前から姿を消した。露骨に面倒くさそうな顔をして、見えなくなった通称馬鹿の走り去った方向を睨む。
如何やら昨日の二人の遣り取りの一部始終を見ていた生徒達を発端として、言われも無い噂を立てられてしまったらしい。一護は頭が痛くなった。
前から怪しいとは思ってたけどねー、という意味有り気な台詞を言った水色を睨んで、一護はどうやって織姫にこの誤解を解こうかを考えていた。きっと、彼女も困っている筈だ。
学校に来るなりたつきに蹴られ、千鶴に殴られ、啓吾に泣かれ、水色にからかわれ、そのうえで織姫にまで悪い印象を持たれてはたまったものではない。よくよく考えたら、もしかしてこの誤解の原因は彼女の行動に有ったのではないかとも思うが、彼女を責める気は一切無い一護はそうそうに考えるのを止めた。
学校に来た織姫の顔はいつも以上に嬉しそうに微笑んでおり、一護との噂を聞かれても幸せそうに笑って喜んでいたのは言うまでも無いのだった。
「あんた、結局織姫とデートしたの?」
「デートじゃねぇよ!ちょっと一緒にケーキ食いに行っただけだっつの!」
「どーう見たってデートじゃねーかよぉぉ一護のスケベ!エロ魔人!」
「殺すぞてめぇ!井上だってデートじゃないって言ってんだろ!」
「うん、デートじゃないよ。えへへ」
(井上は何でこんな嬉しそうなんだ…?)
――――――――
一緒にケーキ食べただけで幸せの骨頂
一←織!一織可愛くてすごい好きです。ほのぼの!寧ろ一護関係のノーマルは殆ど好きです
新章に突入してから二人は何時くっつくのかなとそわそわしております
これを考えたきっかけが、新章で織姫が一護を誘ったんだけど断った、ってとこにある。一護にもうちょっと余裕があれば、きっと彼は織姫を突き離したりしないよね…という思い
ここで言うのもあれですが、私は一応BLとNLは分けるようにしています
なので一織も好きだけどそれと同時にイチウリも好きなのです
無題
夜中だというのに、外に降り積もる白い結晶を見たら勝手にベッドから降りていた。
もう家族は寝てしまっている。音を立てないで階段を下り、パジャマの上に上着を着込んだだけの簡単な服装で真っ暗な闇の中へ出た。
ぱらぱらとゆっくりと、確実にこの町に落ちてくる。
もう何週間も前から降り続けている筈のそれに、興味が出たのは今更だった。もう12月などとっくに過ぎ去っており、一年の終わりを迎えて再び新しい年が始まる、それから約二週間。
雪になんて目を止めた事は無かった。ただ、この町は降るにしても積もる事はそうそうなく、これだけ積もっているのを見るのは生まれてから三、四回くらいしかない。
雪になど興味は無かった。降る事は必然である。驚く事は何もない。
しかし、今はどうだろう。夜の闇の中に広がる白いモノは、暗闇に負けることなく白く光って自身を主張している。吹雪いていないためか、先がぼやけながらもしっかり見えた。
白い息を吐く。寒い。それでも上着のジッパーを閉める事もせずに、落ちてくる雪を一つ、また一つと見つめ続ける。ゆらゆらと揺れながら地面に辿り着いたそれは、地面の雪と一つになり、もうどれが今落ちた結晶なのか、さっぱりわからなかった。
雪の日に履くべきではないスニーカーで、跡も何も無いまっさらな白い絨毯の上に一歩だけ足を踏み入れる。さく、自分の小さい足跡がついた。もう一歩、もう一歩。
さく、さくさくさく
下らない事だと分かっているのに、跡を付ける事を止められない。
ああ、虚しいと感じる。寂しいと感じる。
心が寒い。
「さむい」
小さく声に出して、答えてくれる人はいない。
こんなに寒いと思ったのは久しぶりで、指にも足にも、耳にも感覚が殆ど残っていない。
それなのに身震いはできず、眼の辺りは熱かった。
自分の心は雪だらけだった。
何処に居てもどんな事があっても、吹雪は止まない。現実とは真逆の現実。
いつの間にか自分の中にできていた筈の足跡が、一つ減っているのだ。
吹雪が止まない。だけど、足跡は消えない。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。大切な繋がりをあらわす証である雪の上の足跡。
ひとつふたつみっつよっつ。おかしい、一つだけ綺麗に消えている。どの足跡よりもくっきり残っていた筈の、繋がりの足跡。
それは自分と彼の繋がりが、いつの間にか消えてしまった現実。
違う、繋がりは消えていない筈なのに。二人の関係は離ればなれになってしまったくらいでは切れないような、丈夫過ぎるほどの鎖で繋がれていたのに。離れても大丈夫だと思っていたのに。
さくさくさく、さくさくさく
消えてしまった彼の足跡を取り戻すかのように、只管、只管歩いて走って足跡を付ける。こんな事をしても彼が戻ってくる訳でもない。分かっているのに、分かっていながらも、寂しくて死んでしまいそうなこの感情を抑えるために、歩き続ける。
さくさく。彼ではない、自分の足音。
自己満足でもいい。
「さみしい」
吐き出された白い息。やはりその言葉に反応する人間はいない。
首に掛かったままの金色に光るパズルにそっと触れた。酷く冷たくなっていたが、感覚が無い指ではどれくらい冷たいのかもわからなかった。
その所為か、頬を流れた雫が妙に温かくて。けどその雫さえ何なのかがわからなくて。
地面を見たら、履いていたスニーカーが雪でぐしょぐしょになっていた。
「さみしいよ、もう一人のボク」
呟いた言葉に振り向いてくれる彼は、もう隣には居ない。
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今日の帰りに雪を見てたら思いついた話。本当は足跡を付けるだけの話を考えてたのに、何故かこんなに暗くなってしまった…
王様がいなくなって情緒不安定気味なAIBOが理想だったり。勿論闇表ハッピーエンドが一番良いけども。
きっとAIBOと王様はお互いに忘れる事なんて無いんだろうけど、日が過ぎればどうしても存在が薄れていくから、心の奥底に記憶が根付いてればいいな…