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無題
夜中だというのに、外に降り積もる白い結晶を見たら勝手にベッドから降りていた。
もう家族は寝てしまっている。音を立てないで階段を下り、パジャマの上に上着を着込んだだけの簡単な服装で真っ暗な闇の中へ出た。
ぱらぱらとゆっくりと、確実にこの町に落ちてくる。
もう何週間も前から降り続けている筈のそれに、興味が出たのは今更だった。もう12月などとっくに過ぎ去っており、一年の終わりを迎えて再び新しい年が始まる、それから約二週間。
雪になんて目を止めた事は無かった。ただ、この町は降るにしても積もる事はそうそうなく、これだけ積もっているのを見るのは生まれてから三、四回くらいしかない。
雪になど興味は無かった。降る事は必然である。驚く事は何もない。
しかし、今はどうだろう。夜の闇の中に広がる白いモノは、暗闇に負けることなく白く光って自身を主張している。吹雪いていないためか、先がぼやけながらもしっかり見えた。
白い息を吐く。寒い。それでも上着のジッパーを閉める事もせずに、落ちてくる雪を一つ、また一つと見つめ続ける。ゆらゆらと揺れながら地面に辿り着いたそれは、地面の雪と一つになり、もうどれが今落ちた結晶なのか、さっぱりわからなかった。
雪の日に履くべきではないスニーカーで、跡も何も無いまっさらな白い絨毯の上に一歩だけ足を踏み入れる。さく、自分の小さい足跡がついた。もう一歩、もう一歩。
さく、さくさくさく
下らない事だと分かっているのに、跡を付ける事を止められない。
ああ、虚しいと感じる。寂しいと感じる。
心が寒い。
「さむい」
小さく声に出して、答えてくれる人はいない。
こんなに寒いと思ったのは久しぶりで、指にも足にも、耳にも感覚が殆ど残っていない。
それなのに身震いはできず、眼の辺りは熱かった。
自分の心は雪だらけだった。
何処に居てもどんな事があっても、吹雪は止まない。現実とは真逆の現実。
いつの間にか自分の中にできていた筈の足跡が、一つ減っているのだ。
吹雪が止まない。だけど、足跡は消えない。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。大切な繋がりをあらわす証である雪の上の足跡。
ひとつふたつみっつよっつ。おかしい、一つだけ綺麗に消えている。どの足跡よりもくっきり残っていた筈の、繋がりの足跡。
それは自分と彼の繋がりが、いつの間にか消えてしまった現実。
違う、繋がりは消えていない筈なのに。二人の関係は離ればなれになってしまったくらいでは切れないような、丈夫過ぎるほどの鎖で繋がれていたのに。離れても大丈夫だと思っていたのに。
さくさくさく、さくさくさく
消えてしまった彼の足跡を取り戻すかのように、只管、只管歩いて走って足跡を付ける。こんな事をしても彼が戻ってくる訳でもない。分かっているのに、分かっていながらも、寂しくて死んでしまいそうなこの感情を抑えるために、歩き続ける。
さくさく。彼ではない、自分の足音。
自己満足でもいい。
「さみしい」
吐き出された白い息。やはりその言葉に反応する人間はいない。
首に掛かったままの金色に光るパズルにそっと触れた。酷く冷たくなっていたが、感覚が無い指ではどれくらい冷たいのかもわからなかった。
その所為か、頬を流れた雫が妙に温かくて。けどその雫さえ何なのかがわからなくて。
地面を見たら、履いていたスニーカーが雪でぐしょぐしょになっていた。
「さみしいよ、もう一人のボク」
呟いた言葉に振り向いてくれる彼は、もう隣には居ない。
――――――――
今日の帰りに雪を見てたら思いついた話。本当は足跡を付けるだけの話を考えてたのに、何故かこんなに暗くなってしまった…
王様がいなくなって情緒不安定気味なAIBOが理想だったり。勿論闇表ハッピーエンドが一番良いけども。
きっとAIBOと王様はお互いに忘れる事なんて無いんだろうけど、日が過ぎればどうしても存在が薄れていくから、心の奥底に記憶が根付いてればいいな…