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僕にだって守れる
此処は何処だろう。
ぼやける視界の中、キールに届いたのは土の臭いと微かな血の臭い。息を吸おうとしたら、喉と肺が悲鳴を上げるかのようにじりじりと痛んだ。
力が入らない腕で、地面に手を付く。腕もびきりと痛んで、再び地面に倒れこみそうになるが、何とか耐えた。
白い学生服に付いた土埃を手で払う。自身の杖が近くに落ちていて、腕を伸ばしてそれを掴んだ。手が届く範囲にあったことはラッキーだと思った。今の自分は、歩けないくらいに足が震えている。
何故こんな事になっているのか、いつもなら簡単に高速回転する頭が全く回らなかった。
声がうまく出ない喉の奥から、何とか一言搾り出す。
「……ヒー、ル」
彼の周りに光が集い、痛んでいた腕や頭が軽くなる。
喉の焼けるような痛みも消えていて、とりあえずは一安心だと息をついた。
大分冷静になったキールは、初めて自身の周りをしっかりと見回した。
まだ空は明るいのだろうが、深い木々に囲まれていて辺りは暗い。それから、近くにあった大きな木を見上げると、枝が盛大に折れた跡がいくつも残っていた。
目の前は崖。もしかして、僕はここから落ちたのだろうか、と若干納得が出来ない思考を巡る。
どうして僕が落ちたのか、とか、僕一人なのか、とか―――
後ろを振り向いたとき、緑の地面にうつ伏せに横たわる、紅が見えた。
「…っリッド?」
返事はない。動く気配もなく、まるで。
キールはそれ以上考えることをやめ、杖をついて立ち上がる。まだ足の震えは止まらなかったが、そんなことを構っている暇はなかった。
よろよろと覚束ない足取りで、名前を呼んだ少年の近くまで歩く。
歩きながら辺りを見回したが、他の仲間がいなかったことに少しばかり安堵する。どうやら上から落ちたのは自分とリッドだけらしい。
声を掛けながら肩を揺さぶるが、やはり反応はない。少しずつ焦りが生まれてくる。彼の左腕に大きな切り裂き傷があり、もう血は止まっているのだろうが、広い範囲で緑が赤く色づいている。出血が酷かったのは目に見えていた。
普段は(少し悔しいが)頼りになる大きな背中。その背中が、今は動かない。ぞっとした。
もう一度回復術を唱えようとするが、杖を構えた瞬間、酷い疲労を覚える。目の前がぐらつく。
荒く息を吐きながら、もう一度リッドを見据えた。
(僕が、何とかしないと)
ここに居るのがファラならば、自分が傷ついていても疲れていても、きっと僕たちを運んでくれるだろう。
安全な場所に。
キールは体力がない上に力もない。リッドに担がれることはあっても、リッドを担いだことなんてない。
でも、とキールは拳に力を込める。
ぐい、とリッドの腕を自分の肩に回した。だらりとした彼の身体の重みが伝わってくる。ずしりとした重みに、体が斜めに大きく傾く。顔に力を入れて、足を踏ん張らせた。なんとか斜めのまま止まる。
歯を食い縛り過ぎた所為で歯軋りが生まれた。頭の中に浮かんできた弱音を無理矢理押し込めて、漸く足を一歩だけ動かす。どっと汗が吹き出たような感覚だ。
肌から伝わる、冷め過ぎた体温。
腕を掴む手に力を込めた。
「死なせてたまるか」
独り言のように呟く。
「早く目を覚ませよ、馬鹿」
一歩ずつ、確実に進む足。
そのうち彼女達が助けに来てくれるかもしれない。でも、それを待っているのは駄目だ、と思った。
額に浮き出た汗を乱暴に拭いながら、キールはもう一度指に力を込めた。
――――――――
リッドを守るキール、に少しときめきを覚えた。全然守ってないけど
本当はモンスターと戦ってるとき、リッドがキールを守ってその拍子にうっかり崖から転落、って設定だったんだけど、長くなりそうだから削った
何処までも友情なキルリキル萌。
バカばか馬鹿!
「リッドの馬鹿!もう知らないんだから!!」
ギッとリッドを睨んだ後、ファラはくるりと背を向けて走り去った。
ポカンとしてファラの背を見送っていたリッドだったが、すぐに眉を顰め、みるみると顔に怒りの表情を浮かべていく。
「俺だってお前のことなんて知らねぇっつーの!このっバーカ!!」
その言葉がファラに届いたかどうかなんてわからない。リッドはファラが走り去った後を睨みつけていたが、小さく舌打ちをした後、「くそっ」と頭をがしがしと掻き、ファラとは反対方向に歩き去ってしまった。
そんな二人のやり取りを見つめていたメルディとキール。メルディは初めての二人の喧嘩を目撃し、珍しく困惑したようにオロオロしている。
それとは対照的に、キールは慣れているのか、落ち着いた様子で溜息をついていた。
「リッドとファラ、どうしたか?どっちも怖いよー。」
「いつもの事さ。あの二人は意味がわからない事で意味のない喧嘩をするからな。」
「仲良くしなきゃダメよ!メルディ、ファラ連れてくる!」
「やめておけよ。そっとしておいてやれ。」
でも、と不安そうにキールを見上げる。そんなメルディを安心させるように、キールは珍しく小さく微笑んだ。
「あの二人は馬鹿だからな。」
「…?」
「馬鹿は馬鹿に任せておくのが一番良いさ。勝手に仲直りしてるよ。」
よく意味がわかっていないようだが、メルディは「そっかー!」と笑った。
――――――――
なんぞこれ^q^ 馬鹿って言ってるだけの話。
二人の事を何でも知ってるキールにときめくお年頃。そんでメルディに優しいキールにもときめく(上の話に一切関係ない
傍に居てくれ
貴方だけが知っている
妄想万歳^^
お前は俺で
ファラに起こされるまで、ずっと寝てるつもりだった。いや、多分腹が減ったら勝手に起きてたかもな。
起きたのは、もう太陽が沈みそうな時間。
さすがに寝すぎた。立ち上がるのがだるい。
でも、もう保存してる肉も底をついて来てるから、今日は狩りに出かけなきゃな。
めんどくさいけど、仕方ない。俺は、重い腰を上げた。
森の中は、太陽の光があまり当たらないから、もう既に真っ暗だった。夜になる前に、帰らなくては。
この森は奥まで来るとほんとに迷う。昔、迷ったことがあるからちょっとしたトラウマだ。
その時は何とか帰ったけど。…あれ、どうやって帰ってこれたんだっけ。
木の揺れる音しか聞こえない静寂。今でも気味が悪いと感じるのは健在だ。あの木の陰からなんか出てくるんじゃないかと思うと、今でも正直心臓が止まる勢いだ。
そんなことを考えていると、頭の上にぽつりと何かが降ってきた。まさか、と思ったけど、そのまさかだ。頭だけじゃない、腕にも顔にも、ぽつぽつと雫が落ちてくる。どんどん強くなってきた。これではびしょびしょになってしまうではないか。もう既にびしょびしょだけど。
それでも、何か獲物を捕まえなくては。俺は走って魔物を探す。
そのとき、目の前に小さな影が見えた。
しゃがみ込んで、蹲って、顔が見えないそれは、小さい男の子だ。
俺と同じ真っ赤な髪が、暗闇でも異常に目立っている。そのおかげで発見できたといっても間違いじゃない。
「……どうしたんだ?お前。」
その子はビクッとしてから、ゆっくり顔を上げる。暗くて、そのうえ雨で霞んでいたために、顔ははっきり見えなかったけど。
「と、う……さん……?」
「…父、さん?」
俺の父さんは、十年前に、死んだ。
そのことを思い出して、少し動揺したけど、今はこの子を何とかしなければ。
「こんな森の中ではぐれたのか?」
そう聞いたら、急にその子は目から涙をぼろぼろとこぼした。…んだと思う。暗くてよく見えない。
どうしたと聞いても、何も答えず、ただ下向いて泣いてるだけのその子に、俺は困惑するしかなかった。この場にファラがいたら、何とかしてくれたのに、と思いながら。
…不意に、俺もここで迷子になった時のことを思い出した。
誰かに助けてもらった気がする。そのとき、その誰かに何かを言われたような…。
俺はその子の手を握って、立たせてやる。
「男の子は、簡単に泣いちゃ駄目だって、俺の父さんが言ってたんだ。だからもう泣くなよ。」
父さんは泣いてる俺に、いつも同じことを言っていた。
…父さん以外からも言われたような記憶があるけど。
その子は一瞬、きょとんとしていたけど、すぐにしっかり頷いたから、俺も満足した。
「よし、俺が送ってやるよ。うちどこだ?」
「あ、ラシュアン…。」
「ラシュアン?俺もそこに住んでるんだぜ。なら簡単だな。」
手を引っ張ると、その子は素直についてくる。きっと、長い間ここにいたんだろうな。手がすごく冷たくなっている。風も冷たいから、何とかその子に風が当たらないよう、気を配ってみたけど。
すぐにラシュアンについた。…あれ、でも、俺の知ってるラシュアンよりも、少し、違う…?
昔の、ラシュアンのような…。
空を見ると、真っ暗だった。まずい、何も獲物を取って無い!
雨は運よく弱くなってる。俺は再び森に入ろうとした。すると、その子に引き留められる。
「あ…アンタは、うちに帰らないのか…?」
「俺は、今日の晩飯取りに行かなきゃなんねーからな。またな。」
後ろを振り向くと、その子が俺に手を振っていた。俺も振り返す。
………このやり取り、いつだったかやった覚えがあるのは何故だろう。それに、あの子の声、どことなく昔の俺に似ていたような…。
難しいことは考えるのは苦手だ。きっと気のせいだろうと思って、俺は考えるのをやめて、魔物を探しに走った。
――――――――
リンクしています。エターニアのスキットにあったやつ。
いろいろと不思議ですが。リッドは『昔』としか言ってなかったので、その辺は全部適当。