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2026年06月13日
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汚染浄化(鬼祓師:主零)
2014年04月19日
無言で床に引き倒されて、自分の上に覆い被さるように乗ってきた七代に零は大層困惑した。
七代は零の前で無表情を作ることなんてほとんどなかったし、もしかして自分は知らず知らずのうちに彼を怒らせてしまったのではないかという悲しみが沸いてきた。
「七代…すまない、おれは、何かきみの癇に障ることをしてしまったのだろうか」
しかし七代は怒っているわけではないようだった。そう判断したのは、悲しそうに歪んだ零の頬を撫でる指が、割れ物でも扱うかのような、ふわふわと優しいものだったからだ。
それでも七代は零の上から退こうとはせず、彼の瞳をじっと見ていた。秘法眼を発動しているわけでもないのに、強すぎる眼光が零の瞳を只管射抜いている。
「零」
どこか切羽詰ったような声音に、更に不安を煽られた。どこか苦しいのだろうか、おれに助けを求めているのだろうか。
「零、セックスってわかる」
七代から飛び出した言葉は零にとって予想もしていないものだった。
元々札であった零は、普通の人間よりも膨大な知識を持っていた。だから七代の言葉に対しての答えは当然のように持っていた。なぜ今そんな単語が彼の口から洩れたのか、その理由はいくら情報を持っているといえどもわからなかった。
「セックスとは…生殖活動のことだろう?」
「……うん、そうだな。なんか生々しいけど、そうだな」
「なぜ、きみは…そんなことを聞くんだ?」
「………零、零。セックスってさ、結論的に言うとそうだけどさ、もっと広い意味で言ったら愛し合うとか、そういうことじゃん?」
重ねていた零の手をぎゅうと強く握る。七代の顔はどこまでも真面目で、無表情で、それなのにどこか緊張しているような危うさもあった。
「零、俺な、お前のこと好きだから、お前とセックスしたい」
大人しく七代の言葉を待っていた零の瞳が驚いたように見開かれる。それを見て七代は自分の発言に後悔したが、今更引こうなんて考えもなかった。
零はゆっくりと瞬きをしたあと、眉をきゅっと寄せた。困らせている、引かれたのかもしれない、そう考えると胸が冷えたような悲しい気持ちになったが、こんなやましい気持ちを持っている自分が一番愚かしいのだとわかっていた。引かれるのだって嫌われるのだって覚悟して、それで自分はこうしたいと思って行動に出た結果だ。
自分は今私利私欲のためだけに、自分を純粋に慕ってくれている彼を傷付けようとしているのだ。
正直零の返答を待つつもりはなかった。彼のことが好きで、大事で、だからもっと触れ合いたかったし、誰も知らない彼の姿を見たいと思った。彼がどんな顔で善がるのか、どんな声を出すのか、ひたすら知りたいだけだった。そんな理由で性的暴力に繋がろうとしている。まるで言い訳だ。
「七代、……七代」
零が七代の手を握り返してきた。
「おれは、女のひとじゃない…セックスとは、男のひとと女のひとが次代に後継者を残すための、ひとにとっては意味がある行為なんだろう」
「………」
「だが、おれは女のひとでもなければ、ひとそのものですらない…おれとそんなことをしても、利もなければ意味もない。なにも生まれてこない…」
「………ごめんな、ごめん、変なこと言って」
「…?七代、そんな顔をしないでくれ……おれは、きみが、おれのことを、その、好いてくれていると言った。おれはそれがとても嬉しかった」
「……?」
「きみの言う、広い意味ではセックスとは好きなひと同士で行うものなんだろう?」
零は七代の一番安心する、優しくて少し困ったような微笑み方をした。目をきゅうと細めて、慈愛に満ちたような瞳で七代を見た。
頭を鈍器で殴られたような、胸を刀で一突きされたような、とにかく全身に鋭い痛みが走った。
「きみが…望むのなら。……きみになら、何をされてもいいと思う」
(ああ俺は最低だ)
一気に体温が下がったような感覚と、今すぐこのまま死んでしまいたい衝動に駆られる。
零はどこまでも綺麗で美しかった。自分がどんなにどろどろとした汚い感情を持ちながら「セックスをしよう」と言ったところで、零は清く美しいままなのだ。七代がどんなに零を汚したところで、零の心は綺麗なままで、汚い自分を許すであろうことが許せなかった。
これから最低なことをしようとしているのに、零はそれを許し、否定してこない。自分が最低だとわかっていた分、零の潔白は酷いものだった。
自分は彼を汚す権利などなかった。
七代は絶対離してやるものかと強く握っていた零の手をいとも簡単に離し、彼の上から退くと途端に尻餅をついた。なんてかっこ悪い。
急に退いた七代に零は不思議そうな顔をした。どうしたんだ?と首を傾げる仕草にすらダメージを受ける。
七代は泣きながらごめんごめんと、零に謝り続けた。汚くてごめん、汚れててごめん、と。零は悲しそうな顔をしていた。
「どうして謝るんだ?どうして泣いているんだ?七代…お願いだから、謝らないでくれ…。七代、きみは…とても綺麗だ。きみのこころはあたたかくて優しくて、誰よりも美しいと、おれは思う。どうか、どうか君自身をけなすのはやめてくれ」
(だめだ死のう)
死ぬなら、彼の言葉で残らず浄化されたいと思う。
それだけでも自分の欲望が丸見えな気がして、やはり七代はまたごめんと泣きながら繰り返した。
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零が綺麗すぎて汚い自分を恥じてしまうヘタレ七代
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