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2026年06月13日
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(京楽と浮竹)

2011年02月18日

けほけほという小さい咽たような咳に、見つめていた本から視線を上げる。
立っている自分から表情は見えないが、咳をしている姿から想像できる。
これはかなり苦しそうだなぁ、と。

「だいじょぶ?少し休んでれば?」

左手に本を持たせて、空いた右手で彼の背中を優しく擦る。
当の彼はやんわりと微笑みながら大丈夫だと言っている割に、咳は止まることなく彼の口からけほけほと吐き出されていく。
終いにはけほけほ、からげほげほ、に変わって、激しく咽る。
慌てた京楽が背中をとんとんと叩きながら声をかけると、やはり浮竹はにこりと笑って「大丈夫だ」というだけだった。青白い顔をして隠しているつもりなのかと半ば呆れの溜息を零す。
持病の事もあるのだろうが、何しろここは酷く埃っぽい。浮竹にとっては体に毒なのだろう。目ぼしい資料だけ隊舎に持って帰ればいいものを、なのに彼はここから動く気はないようだった。
しかし、目ぼしい資料といってもそれだけでも膨大な量がある。こっそり持ち帰るには少し難しい量で、隊首会を仮病で休んでまでここにいるのだ。見つかったら何を言われるかわからない。だからこそこの埃だらけの図書室で資料を漁っているのだが。

「あのさ、真面目に言うけど、お前本当に大丈夫なわけ?今にも死にそうな顔してるよ」
「失礼だな。俺は全然平気だよ」

なおも疑り深い目で浮竹を見つめる京楽だったが、再び溜息をつくと彼の背中から手を離し、立ち上がる。それから先程の本を見つけた棚の位置に戻る。
もう何冊見たかわからない。そろそろなんでこんな量の本を探して読んでるんだっけ、と当初の目的も少々曖昧になってきた頃である。
分厚い本を一冊二冊、棚から抜いてページを開く。字以外のものは書かれていない。これは何かの哲学書か何かかと思いながら本棚に手を掛ける。

「っがはっ!」

びくりと肩を震わせた後に、素早く後ろを振り向く。白髪の男が開いた本の上に蹲っている。持っていたよくわからない哲学書を地面にぞんざいに落とし、蹲る姿に駆け寄った。

「ちょっと何、どしたの」
「げほっ、埃、吸い、こっ、げほっげほっ」

彼にしては珍しく、涙目になりながら途切れ途切れに訴える。口元を押さえながら苦しそうに咽る浮竹を支えながら、京楽も珍しく困惑した表情で辺りを見回す。
普段は周りに人がいたから四番隊に報告できたが、今は誰もいない。自分では何もできない。こんな状態の浮竹をここに一人で置くこともできない。

「えっ、ちょっと、えぇ~…」

対応に困る。先程よりは収まったが、相変わらず頻りに咳をし続ける背中を撫でながら、どうしようと考える。これは一旦隊舎に戻したほうが良いだろうか。
そうだ、そうしよう。何も今日中に調べ上げれば良いなんて誰も言ってない。このままではこの病弱な男は本当に危なくなってしまう。
肩に掛けていた羽織りを浮竹に被せて、そのままひょいと抱え上げる。

「…うわ、軽い。お前これ、生きてるの不思議じゃない?」
「え、京楽、俺はだいじょう、けほっ」
「いいからいいから。今日はもうお開きにしようよ」

降ろしてくれ、という弱々しい抗議を無視して、両手で彼を抱えたまま図書室を出る。
埃っぽい空気は吹かれた風に消され、漸く京楽も一息つく。外の空気のおかげか、先程までの激しい咳は息を潜め、少しばかりは落ち着いたようだ。それでも顔色の悪さは変わらず、しかし表情は笑っていた。
そんな浮竹を見て、京楽は小さく顔を顰めた。

「うん、さっきよりは気分が良くなったかな」
「…そう、そりゃ良かった」

急に視界がゆっくりと動き始めた。この男が歩を進め始めたのだ。そういえば、まだ抱えられたままだったな、とふと思い出す。
真っ直ぐ前を見ながら歩く自分を抱えている男を見ながら、浮竹は小さく首を傾げた。
何か怒っているのか?
どうにも不機嫌に見える。基本的に彼は滅多に怒る事などない温厚な人間だ。その分、表情と態度に感情が現れ出るために、分かり易い。
今の彼のこの態度、どうにもおかしい。いつもの彼ならば「それなら良かった」と笑って、大人しく降ろしてくれるのに。殆ど無言で歩き続けるなんて。

「……お前ね」

浮竹に視線を合わせないまま、京楽が口を開く。

「あんまり強がってるとほんとに死んじゃうよ」
「俺は…別に強がっているつもりは」
「大丈夫じゃないくせにさ」

そこまで言うと、口を閉じる。
少し癇に障る言い方だったが、それ所謂彼が本気で自分の心配をしてくれていたということ。
別に強がっている訳ではなかった。ただ、激しい咳など自分には良くあることなのだ。いちいち気にするほどのことでもないだろうと言う耐性がついてしまい、無意識のうちにそう答えるようになっていただけだ。

「……ありがとう」

怒るほど心配してくれていた親友に笑いかける。
当の彼は「……どういたしまして」と小さく呟いた。


――――――――

京浮って可愛いよね
可愛いおっさんって正義だよね

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