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偽りの恋で5題(GX:十エド)
隣りに座る、一応年上である少年を横目で見遣る。
彼はじっとどこか遠くを見つめているような、だけど少し眠そうな瞳で、此方を見ない。
それなのに、彼は自分の隣りに来たがる。
エドは一人になりたかった。
一人になりたいと思ったとき、必ずその少年は隣りにやってくる。
正直、彼が隣りに来たところで会話もなければ目を合わせることすら殆どない。いつも煩わしい程の明るさと笑顔は、エドの隣りに来るときは忽然と消えてなくなる。
只管に真っ直ぐを見つめる大きくて綺麗な瞳。エドはそれが好きであり、嫌いだった。
一人になりたい、そう思って、その場から立ち上がる。
すると、隣りに座っていた十代も少し遅れて立ち上がった。
彼には目もくれずに歩き出すと、また少し遅れたタイミングで十代も歩き出す。
無意識に眉が吊り上がった。
「十代、付いてくるな」
「嫌だ」
漸く、今日始めて瞳を交わし合った。やはり目に入ってきた顔は笑顔とは程遠く、だけどそれは怒っているとか悲しんでいるとか、そういうものでもなかった。
彼は鈍いくせに変なところで鋭い。エドはいつも思っていた。
「僕は一人になりたいんだ。いいから付いてくるな」
「やだ。今は傍に居たい」
傍に居たいって何なんだ。エドは十代を睨んだ。大きな瞳がかち合う。
「同情するな。惨めになる」
「そんなのしてない」
「今のお前の目は、そんな目をしてる」
十代は驚いたように目を見開いた。
十代は本当にそんなことを思ってはいなかった。ただ本当に、「傍に居たいな」と思っただけなのだ。
彼は、常に背中に寂しさを纏っているなと思った。自分よりも少し小さくて、それなのに自分が感じたこともない大きな寂しさを背負っている彼を見て、十代も悲しくなってきたのだ。
それから、「傍に居たい」という思いは更に大きくなった。それは何故なのか酷く曖昧で、十代自身も理由を深く考えることはしなかった。
けれど、それが彼の言う「同情」なのだろうか。十代にとって、同情という言葉の意味も曖昧だった。
「俺は同情なんかしてない。ただ傍に居たいだけだ」
「それが同情なんだ。大方、一人でいる僕が可哀相とでも思ってたんだろう」
「何でそうなるんだよ!俺は、傍に居たいだけだ!」
つい声を荒げてしまって、はっとなる。エドは目を丸くして、直ぐにぐっと目を細めた。
再び背中を向けられて、溜息をつかれる。伝わってないなと十代は少し項垂れた。
理由なんてなくて良い。ただ傍に居たいとそう思うだけで十分な筈なのに。
4、傍に居ることにも理由が必要
(どうやら彼は理由が欲しいようだ)
――――――――
お題配布元→Paper plane
砂糖は程々に
ぼちゃん。からから。
ぼちゃん。からから。
そんな音ばかりが部屋に響く。万丈目は苛々したように机を指でとんとん、と小さく叩いていた。
彼の正面に座っている十代が、自身のカードを真剣に見つめながらううんと首を捻っていた。
ぼちゃん。ぼちゃん。
彼らの目の前には、湯気を立てている入れたての紅茶。
ちょっとした休憩のつもりで、ブルー寮から適当に選んできた良さそうな茶を淹れて万丈目が優雅な気分で飲んでいたところ、十代が元気良くその中に入ってきた。
レッド寮で飲んでいたのが悪かったか、と思うのがもう少し早かったら、と万丈目は少し悔やんだ。
若干気分が下がったが、俺も飲みたいとせがむ十代に早々に折れて、しょうがなく、渋々淹れてやった。
といっても特にすることも無くただ座っていることが十代は苦手なので、紅茶を目の前に早速自分のデッキを取り出してカードをテーブルの上に並べる。
行儀が悪いなと思いつつ、面倒くさかったので万丈目は何も言わなかった。
狭い食堂の奥にあった角砂糖に手を伸ばし、一つ、二つとぽちゃりと入れる。
「それなんだ?」
「ん?」
「その四角いやつ」
ああ、これのことかと万丈目は納得し、十代の目の前の白い入れ物を置いた。
「角砂糖だ。砂糖の塊と言った方が分かりやすいだろうな」
「へぇ。俺粒のやつしか見たこと無いや」
興味深そうに瞳を輝かせながら、蓋を開けて一つ取り出す。おお、すげぇ四角いなという不思議な感想を述べた後、紅茶にちゃぽんと入れて、渡されたスプーンでくるくるとかき混ぜる。
何かが楽しかったのか、嬉しそうに顔を綻ばせた十代は、続けて二、三個ぼちゃぼちゃと入れる。スプーンでかき混ぜると、じゃりじゃりと砂糖が溶ける音がした。
カップを持ってぐいっと一口、「甘い!」と叫んで笑った。
何でこいつはこんなにも能天気そうに見えるんだろうか、そんなことを万丈目は考えながら、自分もスプーンをかちゃかちゃと回す。一口飲むと、甘すぎもせず、苦すぎもせず。絶妙なバランスを保っている紅茶に、万丈目も満足して一気に飲み干した。
いつの間にか十代も全て飲み終えていたようで、もう一杯と万丈目にカップを手渡した。
それくらい自分でやれとも思ったが、カップを手放した瞬間に意識がカードに行ってしまった十代に文句を言うタイミングを逃し、ぶつぶつと何かを呟きながらポットを手に取った。
「淹れてやったぞ」
「おう、サンキュ」
ぼちゃん。からから。
目はカードを見たまま、指だけを動かして十代は角砂糖を一粒入れてスプーンを回す。
ぼちゃん。からから。
再び砂糖を入れ、スプーンをくるくる。
ぼちゃん。からから。
流石に訝しげに思った万丈目は、十代と彼の紅茶を交互に見た。当の彼は未だにカードを真剣な面持ちで見つめたまま。それなのに右手はスプーンを握ったまま。
そこで冒頭に戻るわけだが、万丈目は正直吐き気がした。何の理由があってそんなに角砂糖を馬鹿みたいに入れるのだ。一体どんな味がするのか、想像しただけで胸焼けがする。
十代の右手は角砂糖を探すために宙を彷徨っている。我慢の限界とでも言うように、それをばしりと叩いた。
「って。何するんだよ」
「入れすぎだ馬鹿」
「いいじゃん、甘いほうが旨いぜ」
限度がある。無言で睨みつけると、「じゃあもう入れないよ」と苦笑された。
砂糖を極限まで入れられた紅茶は、溶け切れなかった砂糖の粒が少しだけ浮いてきている。これはもう紅茶じゃない、紅茶っぽい砂糖だと意外と冷静に思った万丈目である。
カードを束にして整えながら、漸く十代の指がティーカップに伸びる。
彼の喉がこくりと鳴った。
「……っあっま!」
「当たり前だこの馬鹿!」
口元を押さえて眉を下げた十代に対し、万丈目は怒鳴った。
――――――――
意味はない文。
「角砂糖に興味示す十代」「角砂糖をこれでもかと入れる十代」「何だかんだで世話焼く万丈目」を書きたかったのだ…
すきすきすきす
じゅうえどでじゃっかんふむけようそ
好き
「あ、好きだな」と思った時、気のせいかなと考える方が多かった。
でも、そう思った時はいつも同じ人間を眼で追っていて、俺に目の前で笑って笑って笑って
たまに落ち込んだり怒ったりして、けどやっぱり最後には笑って
奇抜な行動したり意味わからない台詞を叫んだり
女タラシで誰彼にでもクサイ台詞を吐き出して
(あ、好きだな)
隣に居ると安心すると同時に何とも言えない苦痛と罪悪感がある。
それは俺如きが彼の隣に居ても良いものかと自分を卑下するだけじゃなく、親友である彼にそんな如何わしい感情を持っている事に対しての方が強いのかもしれない。
隣に居ると居心地が良くて、酷い嫉妬に駆り立てられる。
その嫉妬は俺が持っていなくて彼が持っている何かの才能を妬んでいるという訳ではなく、ただ単純に中に渦巻く真っ黒くて醜い塊を俺が『嫉妬』だと思っているだけだ。
きっと彼を取り巻く人間に対しての感情なのだろう。天才と呼ばれるほどの才能と共に、容姿端麗という言葉が似合うだろう整った顔を持つ彼は、当然のように毎日女生徒からの黄色い声援を一身に浴びている。
当たり前だ、彼は人気者なのだから。
俺は『親友』という一つの特別な枠の中に居る一人なだけで、別に彼にとっての特別は俺だけじゃないなどという事は分かりきっている。
それなのに、俺はあいつを独り占めにしたいとでも思っているのか。
ああ、嫌だ。俺は自分の中の醜い感情が嫌いだ。俺にだってあいつ以外の親友が居る筈だ。その事を考えて、「俺の事を独り占めにしたい」なんて思っている奴を見つけたら軽蔑するのだ。
あいつもそうなんだ。それが普通の反応なんだ。
それでも、俺は彼が居ないと駄目なんだ、彼に一番俺の傍に居て欲しい。
気持ち悪いなんて思われるのは想定の範囲内だ、俺は彼に気持ち悪いだなんて思われる事を苦痛としない。逆に受け入れられてしまっては、俺の立場が無い。
彼は俺の物ではない。誰の物でもない。自由奔放な姿が好き。それを俺という枷を付けて繋ぎ止めるなんて事、俺には許されない事なのだ。
(あ、好きだな)
笑っている顔の隣には、いつもの人物。
帝王と呼ぶに相応しい男。
そいつの姿を確認する時、俺の心臓は音を立てて縮んで行くと同時に、在られも無い嫉妬の感情が蘇り、帝王への尊敬が生まれる。
また彼と一緒に居るのか。いつも一緒に居るよね。二人は本当に仲が良いなぁ
ああもう、俺は何を考えたいのだかわからないよ。
彼が好きで、親友で、嫌で、隣のあいつだって親友で、尊敬してて、好きで、ああでも憎い。
憎いだなんて思いたくない。
でも、二人でいるときの彼らの顔は楽しそうで、俺が入る余地なんて無いくらいに楽しそうで、寧ろ俺という存在が二人の中から無くなっているんじゃないかなぁと思って
それが何よりも嫌だ。
俺ってなんてちっぽけなんだろう。そう思って、眼の端に映った二人の背中に声を掛ける事が躊躇われて
彼の笑っている顔が好きだ。どんなときも、どんな事があっても、崩されない綺麗な顔
………なんだ、それで良いのか
俺は俺の横で笑っている彼が好きな訳じゃなく、俺に笑顔を見せてくれるお前が好きなんだな。
じゃあ、それで良いかなととうとう自己完結するべき時が来たようで。
笑ってくれるならそれで良い。俺の隣じゃなくても良い。
とにかくとにかく笑って笑って笑って、俺が好きな笑っている彼が居ればそれでいいのだ。
単純。
「……吹雪、丸藤!」
振り向いた顔は、やっぱり笑っていた。
これが、俺の大好きな笑顔。
「あ、好きだな」と思った時、気のせいかなと考える方が多かった。
気のせいじゃ無いなって気付いたのは、その笑顔のお陰だった。
――――――――
藤→吹で藤原ネガティブ思考。藤原は病んでいる位がちょうどいい。
こっそり吹→亮だったりもする。個人的に藤原と亮は仲良し希望なので藤原は亮に嫉妬しても暫く経ったら「まぁ、丸藤なら良いか」って考えに至る。因みに亮は藤原の事「途轍もなく面倒くさい奴だけどとても良い奴」と思ってる
あし
聞こえたのは真夜中。
部屋に響いた短い悲鳴に、翔はぱちりと目を覚ます。
何事かと思いながら上半身を上げるが、寝起きの頭の覚醒にはまだまだ時間がかかるらしく、ぼーっとしたままにきょろきょろと周りを見渡す。今の悲鳴は聞き違いか、夢でも見ていたのかな、そう思う。悲鳴が上がるような夢を見ていた事に、少しだけ身震いした。
「……う、ぐぅ……っ」
聞き違いなどではない、明らかにその声は現実の自分の耳に入り込んでくる人間の声、それは確実に自身の上から聞こえてくるもので。
再び聞こえてきた呻き声で完全に意識がはっきりし、まさか、と思いながら慌てて二段目のベットから梯子も使わずに飛び降りる。あまり高さが無かったお陰か、難無く床に着地した。
「アニキ!」
「…つ、ぅ……ぅ」
「アニキ!どうしたの?!大丈夫?!」
返ってくるのは苦しげな呻き声だけで、返事はない。
きつく目を閉じたまま、十代は包まっていた布団を蹴飛ばしてシーツを強く握っていた。表情は苦痛に歪み、額には脂汗、息も荒い。普段の彼からは考えられないくらいに弱っている姿。
世界の終りが訪れたのかと、混乱していた翔は本気でそう思った。
このまま放っておくと十代は死んでしまうのではないか、考えたく無くても自然と頭に浮かぶ最悪な結末に、恐怖で動けなくなる。
目の前が涙でぼやけていくのを感じながら、翔はただ目の前で叫んだ。
「アニキっ!死んじゃ嫌だよ!」
「……は、………はぁ、はぁッ……」
呻き声は聞こえなくなり、代わりに苦しげな息遣いだけ聞こえてくる。それでも先程までの苦痛の表情は和らぎ、暫く呼吸を続けた後、ふう、と小さく息を吐いた。
翔が目を開けたとき、十代は元の彼に戻っていた。未だに少し額に汗が浮かんでいるが、服の袖でそれを拭うのを見ながら翔が泣きそうな声を上げる。
「アニキぃぃぃ!!死んじゃうかと思ったよおぉぉ!!」
「あ……翔、ごめんな、起して」
「良いんすよ!アニキが無事ならそれで…!」
目の前の小さい同年代の頭を撫でながら「さんきゅ」と笑う十代は、やはりいつもの十代で。
では、先程の異常な苦しみ方は何だったというのだろう。先程の変わりようを感じさせないほどに、十代はいつも通りに戻っている。
何があったのかと、翔は聞いた。十代にとって話したくない出来事なのかもしれないが、これからも彼がこんな苦しむ様を見る事になったらきっと自分は耐えられない。知る必要があると思ったのだ。
何かの病気だったら、自分にできる事は何も無いかもしれない。でも、少しでも彼の手助けをしたい。
真剣な眼差しで見つめられ、苦笑して頬を掻きながら口を開いた。
足を、撫でたまま。
「別に言うほどの事でもないんだけどさ」
「そんなこと無いよ!あんなに苦しんでたのに」
「……俺も、これでこんな苦しんだのは小さい時以来だなぁ」
やはりよくあることなのか。思った通り何かの病気なのか。
翔はぐっと力を入れて、十代の次の言葉を待った。
「久しぶりだったんだよ……足攣るの」
――――――――
な ん だ こ れ
足攣るだけの話でした