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2026年06月13日
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聴いて感じて楽しんで(T&B:コテバニ)

2013年08月25日

どどん、どどんと心臓に響く音がする。
なんだろう、と不意に窓の外を見ると、僕の視線に気付いた虎徹さんが「太鼓だよ」と言った。
音が響いてるのは結構遠い場所だというのに、「太鼓」の音だけは酷く力強く耳に届いてきた。座ったままビールをごくりと飲んでいる虎徹さんに視線を戻すと、彼は半分からになったビールの缶を床に無造作に置いた。それだけの量ではまだまだ酔えないのか、特に赤みもさしていない顔が、僕の顔を見て可笑しそうに笑う。

「興味あんのか?」
「何にです?」
「太鼓の音だよ」

虎徹さんが言うに、僕の瞳は好奇心できらきらと輝いていたのだという。
今日はそういえばちょっとした祭りがある日だな、と彼が思いだしたように呟くから、僕はどんな祭りなんですかと聞いた。彼は僕が、何事にも興味を持つことが嬉しいのか、立ち上がって僕の隣りに立って窓を見るなり、頭をわしわしと掻き混ぜてきた。


「シュテルンビルトの北側でな、一年に一回だけ、和に模した祭りが開かれるんだ。提灯っつーのをたっくさんぶら提げてな、それ持ってパフォーマンスとか、色々やるよ。提灯に火を灯すから、ぴかぴか光っててすんげえ綺麗」
折紙辺りなら今日、行ってるんじゃねぇかな。
虎徹さんの言葉に耳を傾けながら、僕の心臓は未だにびりびりと太鼓の音を感じている。
太鼓って、どう鳴らすんですかと聞けば、叩いて鳴らすんだと答えが返ってくる。タンバリンのような感じだと想像すると、間違ってはないようだがそれよりも一回りも二回りも大きいのだという。
どどん、どどん。


ちょっと遠いかもしれないけど、行ってみるか。
虎徹さんはトレードマークのハンチングハットを何故か僕の頭にのせて、僕の手を取った。それを引っ張るでもなく、あくまでも僕の意見を聞いてから行動に出るらしい。
握られている手が温かくて、握り返したことが答えととられたようで、ゆるりと笑いながら虎徹さんは僕を引っ張って夜のシュテルンビルトに連れ出した。
ぎらぎらと眩いライトに照らされた美しい街に、少し不釣り合いな、存在感のある音が響く。底から伝わってくる音は、地響きのように不愉快ではなく、どこか落ち着けるような安心感さえあった。
僕の車で良いと言ったのに、お前の車は目立ちすぎると彼の車に乗り込むことになった(因みに虎徹さんはお酒を少々飲んでしまったので、運転するのは僕だった)。
窓を少しだけ開けると、相も変わらず太鼓の音が聞こえてくる。窓に遮られているせいで先程よりももっと小さくなってしまった太鼓の音だが、僕は寧ろこれくらいの方が、煩すぎず静かすぎず、ちょうどいいと感じた。

「そんなにいい?」
「太鼓、ですか?はい、なんだか好きですね」
「はは、バニーちゃんたら可愛いな」

ちょっと馬鹿にしてるでしょう。そう言うと「少しも馬鹿になんてしてないよ」と嬉しそうに微笑まれた。もしかしたら、彼は顔に出てないだけで少しばかり酔っているのかもしれない。

いつもなら車の往来が激しい道路が、今日に限ってほとんど混んでいなかった。もしかしたら、みんなあの祭りを見に行ってるのかもしれない。

「人があんまり多いと、ちゃんと見えないかもしれないなあ」
「大丈夫でしょう。背は高い方ですし」

お前は高すぎる方だよ、と小突かれた。
僕は、車から出る気はなかった。ヒーローとして顔出ししてる時点で、あまり人々の群れに入っていくのは得策ではないと知っているからだ。
僕は別に、太鼓の音を聞いてるだけでもいい。

「お前って、祭りとかあんまり行ったことないだろ」

目にちょっと彼に映してから、僕は頷いた。
両親がいなくなってからは、それどころじゃなかったのだ。遊ぶとか、休むとか、余裕がなくてはできないようなものとの縁は完全に切っていたから。
マーベリックさんに連れられて行ったことだってあるが、親子で楽しそうに祭りを堪能している子供を見るたび、僕はただ寂しくて惨めな気持ちを味わっているばかりだった。
思い出してしまって、きゅっとハンドルを握る手に力が籠ってしまう。そんな僕の手に、虎徹さんが手を重ねてきた。
運転中ですから危ないですよ、と言ったけど、虎徹さんはゆるゆると僕の手を撫でるだけで、手を退けなかった。じんわりと指の間が温かくなっていく感覚がする。

「バニーちゃん」
「なんですか」
「今日は俺がたくさん奢ってやるからな」

車から出る気はないんですが。虎徹さんは、帽子を被ってるからバレやしないと笑った。僕に帽子を被せたのはそのためだったのか。でもこの程度でバレないわけがないのでは、と思ったが、普段の虎徹さんの顔がアイパッチで隠されていて、ただそれだけで彼の素顔が隠されているという現状を思い出して、ああ意外とバレないのかもななんて考えた。
僕の考えが、虎徹さんの単純な思考に侵されている気がした。

道脇には人の歩く姿が増えていて、どうやら道路は渋滞らしい。ああ会場が近いのだな、と思うと、不思議と僕の心も躍り始めた。
アイパッチをしていない虎徹さんが警備に付いてる人へ駐車場はないかと聞いている。やはり彼はワイルドタイガーだと思われることもなく、とても普通に駐車場までの道を説明されていた。僕はなんだかおかしくて笑いそうになったが、深く深呼吸をしてそれを耐えた。
どうやらすでに駐車できる場所が残ってないらしい。警備員から離れると、虎徹さんはその辺に置いてしまおうと悪戯っ子みたいに笑った。
それって違反じゃあ、と僕は躊躇ったけど、なんだか、虎徹さんの笑顔がとても羨ましく見えたから、人が通ってない脇道にそのまま止めてしまった。

「駐車違反、怒られるのは一緒にな」
「当然です」

虎徹さんの帽子を目深に被って、いつも着ている真っ赤なジャケットを珍しく脱いだ。きっとこれが一番目立つんだろうと思ったからだ。
虎徹さんが笑った。

「上着脱いでもさ、やっぱりお前は立ってるだけで目立つよ」

そう言って彼は僕の唇の優しく口付けた。



どどん、どどん。
今までで一番近くに聞こえる太鼓の音。心臓にびりびり響く。ただそれだけじゃなく、自分の鼓動の音までもが響いてきた。
多分僕は、高揚している。
それが、久しぶりの祭りに心が躍っているからか、いつもよりもかっこよく見える虎徹さんに手を引かれているからか、普段やらないようなことをしているための緊張からか。
全部違うような、全部合っているような、不思議な、ふわふわと浮足立つ気分。

僕はその日、楽しいという感情を見つけ出したのだ。



――――――――

今住んでるところであったお祭りがすごかったのでその感動を…と思ったらなんか違う感じになった
時間軸:ジェイク撃破後の一か月後とかその辺。ながーい二十年のなかで憎いとか悲しいとかそういう感情ばかりが育っちゃったバニーちゃんの中で、ようやく楽しいって感情が見つかったんだよって話だよ
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