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2026年06月13日
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涙雨(T&B:虎兎)
2011年06月30日
雨は昨日の夜から降り続いている。
ざあざあ音を立てて地面に落ちる強い粒は止まない。
僕は会社の近くの公園のブランコに一人座っていた。
いつからこうしているのか分からなかった。
傘も差さないで、服もぐしゃぐしゃなら顔もぐしゃぐしゃ。周りから見たら酷い有様だろう。いつもの僕ならば気にするのだろうが、生憎今はそんなことを気にしている余裕がなかった。
毎朝時間をかけてセットする髪の毛は水分を含んでしなしなだ。眼鏡を外している所為で視界が酷い位にぼやけているが、こんな豪雨の中、掛けていてもきっと同じだ。
ブランコの下の浅い窪みに水が溜まっている。この水溜りの所為で、雨上がりの後のブランコは乗るのが躊躇われたものだ。
そういえば、ブランコなんてここ何年乗っていなかったか。最後に乗ったのは何時だっただろうか。
ぼんやりと思考を巡らせる。足に力を入れようと少し動かしたら、ぐちゃりと土の抜かるんだ音が聞こえた。自慢の真っ赤なブーツは泥まみれ。
それでも僕はブランコに乗りたくて、身体を傾けてそれを揺らした。キイキイという軋んだ微かな音が聞こえた。
僕は不意に空しくなって、息を一つ、吐いた。
ざあざあという音は止まらない。
僕に雨が当たらなくなったことに気づいたのは、暫くしてだった。
顔を上げると、いつの間にそこにいたのか僕の見知ったおじさんがいた。
眼鏡がなくてぼやけていたけど、確かに僕の仕事仲間のおじさんだった。
ざあざあという雑音は何時までたっても止まることはなかったけど、何故だか今この瞬間全ての音という音が僕の耳に聞こえなくなった気がした。
おじさんの口が開く。紡ぐのは僕の名前じゃなくて、彼が勝手につけた僕の愛称。らしい。
「バニー」と唇が形を作る。
いつもならば間髪入れずに名前を修正するのだが、やはり今の僕にそんなことを言う余裕はない。
僕に雨が当たらない。
折角僕に雨が当たっていたのに。
「バニー」
返事をしない僕をおじさんがもう一度呼ぶ。僕は返事が出来ない。口を開けない。雨が当たっていたら或いは開けたかもしれない。
おじさんが傘を退けてくれる。漸く雨が戻ってくる。
同時に傘を投げ捨てた。僕はびっくりする。
宙に浮いた深緑色の傘は、音も立てずに水分を含んだ地面に落ちる。傘の所為で影が落ちていたおじさんの顔がはっきりとする。
でも表情までは見えない。雨で霞んで、僕の視力が悪いお陰だ。
一気に彼の顔も髪の毛もベストもズボンも、一番の特徴であるハンチングハットも重みを含む。
僕は傘に目を向けた。それと同時におじさんが僕の頭を腕で包み込んだ。ぼやけた視界が真っ黒で何も見えなくなる。
「バニー、帰ろう」
帽子を僕の頭にちょんと乗せる。既にぐしょぐしょのそれは僕を雨から守ってくれるでもない。でも、目の前のおじさんが優しく笑っていた。
僕は一つ頷いて、袖で顔を拭った。綺麗にはならなったけど、少しだけさっぱりした。
彼の親指が、僕の目元を擦ったことが一番驚いた。
(どうしてばれたんだ)
雨に紛れたら、僕も泣けた。
誰にも見られず、誰にも気付かれず、静かにゆっくり。
おじさんが傘を拾う。でもそれを差さずに、右手に傘を、左手に僕の手を握って、歩き出した。
ざあざあしきりに音を立てる雨は止まない。
それでも、僕の涙は止んだ。
ざあざあ音を立てて地面に落ちる強い粒は止まない。
僕は会社の近くの公園のブランコに一人座っていた。
いつからこうしているのか分からなかった。
傘も差さないで、服もぐしゃぐしゃなら顔もぐしゃぐしゃ。周りから見たら酷い有様だろう。いつもの僕ならば気にするのだろうが、生憎今はそんなことを気にしている余裕がなかった。
毎朝時間をかけてセットする髪の毛は水分を含んでしなしなだ。眼鏡を外している所為で視界が酷い位にぼやけているが、こんな豪雨の中、掛けていてもきっと同じだ。
ブランコの下の浅い窪みに水が溜まっている。この水溜りの所為で、雨上がりの後のブランコは乗るのが躊躇われたものだ。
そういえば、ブランコなんてここ何年乗っていなかったか。最後に乗ったのは何時だっただろうか。
ぼんやりと思考を巡らせる。足に力を入れようと少し動かしたら、ぐちゃりと土の抜かるんだ音が聞こえた。自慢の真っ赤なブーツは泥まみれ。
それでも僕はブランコに乗りたくて、身体を傾けてそれを揺らした。キイキイという軋んだ微かな音が聞こえた。
僕は不意に空しくなって、息を一つ、吐いた。
ざあざあという音は止まらない。
僕に雨が当たらなくなったことに気づいたのは、暫くしてだった。
顔を上げると、いつの間にそこにいたのか僕の見知ったおじさんがいた。
眼鏡がなくてぼやけていたけど、確かに僕の仕事仲間のおじさんだった。
ざあざあという雑音は何時までたっても止まることはなかったけど、何故だか今この瞬間全ての音という音が僕の耳に聞こえなくなった気がした。
おじさんの口が開く。紡ぐのは僕の名前じゃなくて、彼が勝手につけた僕の愛称。らしい。
「バニー」と唇が形を作る。
いつもならば間髪入れずに名前を修正するのだが、やはり今の僕にそんなことを言う余裕はない。
僕に雨が当たらない。
折角僕に雨が当たっていたのに。
「バニー」
返事をしない僕をおじさんがもう一度呼ぶ。僕は返事が出来ない。口を開けない。雨が当たっていたら或いは開けたかもしれない。
おじさんが傘を退けてくれる。漸く雨が戻ってくる。
同時に傘を投げ捨てた。僕はびっくりする。
宙に浮いた深緑色の傘は、音も立てずに水分を含んだ地面に落ちる。傘の所為で影が落ちていたおじさんの顔がはっきりとする。
でも表情までは見えない。雨で霞んで、僕の視力が悪いお陰だ。
一気に彼の顔も髪の毛もベストもズボンも、一番の特徴であるハンチングハットも重みを含む。
僕は傘に目を向けた。それと同時におじさんが僕の頭を腕で包み込んだ。ぼやけた視界が真っ黒で何も見えなくなる。
「バニー、帰ろう」
帽子を僕の頭にちょんと乗せる。既にぐしょぐしょのそれは僕を雨から守ってくれるでもない。でも、目の前のおじさんが優しく笑っていた。
僕は一つ頷いて、袖で顔を拭った。綺麗にはならなったけど、少しだけさっぱりした。
彼の親指が、僕の目元を擦ったことが一番驚いた。
(どうしてばれたんだ)
雨に紛れたら、僕も泣けた。
誰にも見られず、誰にも気付かれず、静かにゆっくり。
おじさんが傘を拾う。でもそれを差さずに、右手に傘を、左手に僕の手を握って、歩き出した。
ざあざあしきりに音を立てる雨は止まない。
それでも、僕の涙は止んだ。
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