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曇り空
部屋をノックしても返事が聞こえない。
しかし部屋の鍵は開いている。随分無用心だと思いながら、ノブをガチャリと回した。
部屋は暗かった。当然だ。もう既に、何人かの客は寝静まっている時間。彼も寝ているかもしれない、と思いながらも、きっとまだ起きていると信じて疑わなかった。
それは何故だろうか。きっと、初めて共に旅をしたとき、歳の近い仲間達と部屋で騒いでいたのを見たからだ。あの時の彼は最初見たときよりは成長していたが、精神的にはまだまだ幼く、しかしどんな時でも笑顔を絶やさず、前を向いて只管に進もうとする姿勢が見えていた。
変わらない。それが彼の本質であり、あの頃と今は何も変わっていない。
「……スタン君?」
暗く視界があやふやな部屋で、いつもなら真っ先に見つけられる筈であろう金糸が見えない。試しに名前を呼んでみるが、それでもやはり返事はなかった。
こんな時間に出かけたのだろうか。しかし彼に限ってそんな事をする訳がない。
兎に角灯りを付けようと思い、壁を伝って歩を進める。指に固い感触が当たり、それに触れると白い光が部屋を照らした。
と、同時に、近くにあったベッドが動く。そちらに顔を向けると、驚いたような少年の瞳と目が合った。
金色の髪に、幼げな顔、見間違うことは絶対に有り得ない。
「ウッドロウ、さん、」
すぐに分かった。
この子は今まで泣いていたんだな、と。
真っ赤に腫れた綺麗な空色の瞳と、しゃくりあげる様な声。鎧さえも外さず、ただベッドのシーツに顔を埋めていた。
彼は慌てたように目元を拭うと、いつもの太陽のような笑顔を向けた。
無理をして笑っているつもりはないのだろうが、太陽の笑顔は普段より曇って見えた。
「どうしたんですか。何か、俺に用が…?」
「……やはり、悲しいのだろうな」
「…え、どうしたんですか。悲しいなんて、何が…」
「…リオン君のことだ」
海底洞窟で我々を逃がし、命を落とした少年の名前。
最近の彼は、口を開くと「リオンの敵を討つんだ」と声を張り上げる。気持ちは分からなくはないのだ。彼にとって、その少年がどれほど大切な『仲間』で『友達』だったのか。
そればかりではいけないと気付いたのは良い事だと思う。それでも彼の中には『リオン』という存在が鮮明に刻まれすぎている。普段は皆を引っ張るリーダーとして前線に立って前向きな志向を見せる彼が、海を見ながら時たま泣いているのを知っている。一人になったとき誰にも見せずに泣いているのを、私は知っていた。
あの頼もしくも危なっかしい姿からは想像も付かないほど、小さく見える背中。
こんな彼を見ていたくない。見ていられない、というのが私の思いだった。
「リオンがいなくなったことは…確かに悲しいです。でも、俺は……大丈夫、だから。俺は、」
空から雫が零れてくる。
人前では弱さを見せぬよう、必死で悲しみと苦しみに対抗した少年。
自分の本能のままに、私は彼を抱き寄せてみた。
見た感じは硬そうな金色の髪は、意外にもふわふわととても柔らかい。髪の毛を指で梳きながら、もう片方の手で彼の身体をぎゅうと抱きしめる。
少しくらい、彼が思い切り泣ける場所を作りたくて。
「泣いても良いのだよ」と耳元で呟くと、程なくして私の服をぎゅっと握ってきた。
顔は見えないが、きっと泣いているのだ。肩の震えが此方にまで伝わってくるのだから。
たくさんたくさん泣いて、君が落ち着くまで私は君の拠り所になっていよう。そう決意する。
「リオン……」
最後に彼の口から呟かれたのは、やはりあの少年の名前だった。
――――――――
ウド→スタ→リオみたいな。
ウッドロウはとても良い人だけど、リオン以上の人になれないってのが良い。
スタンは独りになった瞬間に泣き出したりすると可愛いなぁと思った(辛いけど