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2026年06月13日
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涼太(黒バス:黄青・パロ)

2012年11月13日


※江/國/香/織さんの「デューク」パロのつもりで書きましたがほとんど違うものになってしまいました
※黄瀬君死んでます









飼っていた犬が死んだ。
名前は涼太。犬をくれた知り合いの名前から取った。
黄瀬涼太といえばこの世の全ての女が憧れたモデルである。甘いマスクと人懐っこい性格でオネーサン方を魅了していた。
そんな黄瀬涼太は、二年ほど前に質の悪い病気に侵されて26なんていう若さでこの世界からいなくなった。嘆き悲しむ人間は相当な数で、それはアイツがたくさんの人々に愛されていた証拠でもあった。
黄瀬涼太は犬を飼っていた。毛がふさふさのゴールデンレトリバー。飼い主に似た柔らかい金の毛を纏っていて、誕生日が同じだった。アイツの見舞いに行くと、いつも黄瀬に「俺がいなくなったら、青峰っちに面倒見てほしいなぁ」なんて言葉を投げ掛けられていて、そのときの俺はというといつもいつも受け流していた。馬鹿、縁起でもねーこと言ってんな、と。まさか本当にいなくなってしまうとは。
俺は犬を引き取った。面倒くせーことは大嫌いだったが、黄瀬のことを思ったら引き取らずにはいられなかったのだ。
黄瀬に似て人懐こく育ったそいつに、俺は涼太の名前をやった。しょんぼりとする横顔が黄瀬にそっくりだった。


その犬が二日ほど前に死んだ。あと三日でクリスマスが来るというのに、今年は涼太へのクリスマスプレゼントに困らなくなった。
今日は練習があるから来なさいよ、と今所属してるチームの監督から電話が来て、でも今日はそんな気分になれなかった。だからといって家の中でじめじめと過ごすよりは有意義かと思って外に出たのだが。
俺は普段バスケ以外では出ることのない町に繰り出した。一応散歩コースでもあったその道は、涼太が弱ってきてからは歩かなくなった。酷く懐かしい気分になったと同時に、涼太が死んでしまったことになんとも言えない虚無感を感じていた。
町に流れるクリスマスソング。人々は浮かれまくっている。俺との温度差に苛々した。
気が向いたら練習に参加しようと思って、それまでの暇潰しとして普段は絶対入らないであろう洒落た店に入ると、コーヒーの良い匂いが漂う。そういえば朝飯を食っていないことに気付いた。
かと言って何か食べたい気分でもなく、取り敢えず目に留まった小さい二人掛けのテーブルに腰掛けたままぼーっとしていた。
ふと、目の前に影が落ちる。顔を上げると男の体が目に入った。

「相席、イイッスか?」

耳に慣れた声を確認して、俺は目の前に立っている男を見上げた。長身で、見上げる首がだるい。でも目を逸らすことができなかった。
きらきらした短い金髪と、女受けしそうな綺麗な顔。あどけなくへらりと笑いながら、左耳には銀色のピアスが光っていた。
どう見てもそいつの見た目はあの黄瀬涼太。

「…おま、黄瀬?」
「コンニチハ、青峰っち」
「何で、お前…だって」
「席、座ってもいい?」

返事を聞かないままにそいつは向かいの席に座って、メニューを手に取るとパラパラと捲り始めた。俺はただ状況についていけずメニューを捲るそいつの指を凝視していた。相変わらず綺麗な指だ。

「朝ごはん、まだなんスよ。オムレツ頼んでもいい?」
「お、ああ…」
「ありがと。青峰っちはなんか頼む?」

いらねぇ、と答えるとそっか、と黄瀬らしき人物が笑う。その笑顔はまんま黄瀬で、もしかして黄瀬はうっかり生きていたんじゃないかと錯覚してしまうくらいだ。
そっくりなんてレベルじゃないのだ。大体俺を青峰っちと呼ぶ時点で別人という線は薄い。
長く凝視していたせいか、オムレツを頬張る黄瀬に「食べる?」と聞かれる。いらねぇと言おうとしたのに、黄瀬がスプーンに掬ってこちらに差し出してきたもんだから、反射的に口を開く。黄瀬は嬉しそうに笑いながら俺の口にスプーンを持ってきた。出来立てのオムレツはふわふわしてて美味い。

「青峰っちは昔からいらねーって言いながら差し出せば食べるッスよね」

よく見てて、やってみたいなぁって思ってたッス。
夢が叶ったとばかりにきらきらと笑顔を作る。何だか複雑だった。
その時に携帯が鳴って、席を外して出たら監督だった。いつ来るのと問いかけてきた。黄瀬をちらりと見てから今日は体調わりーから行かねーということを伝えると、監督は呆れたように溜め息をついたあとわかったと言った。明後日は来いよとだけ呟いて切られた。
席に戻ったらオムレツを平らげてしまっていた黄瀬が、いつの間にか紅茶まで頼んでいた。払うの俺なんだけど……まあいいや。

「青峰っち、今日暇なんスか?」
「ん、暇になった」

そっか、と黄瀬は髪の毛を弄りながら呟いた。
料金を払って黄瀬と一緒に店を出た。すると黄瀬は行く場所が決まっているかのようにこっちだと俺を引っ張った。

「じゃ、今日一日俺とデートしよう」

そう言った黄瀬に俺はツッコミを入れなかったし、断りもしなかった。
連れていかれたのは映画館で、今流行りのペットとの愛をテーマにした感動系映画のチケットを躊躇いなく買った。どちらかというとアメリカのヒーロー系のが面白そうだと思ったけど、まあいいやと黄瀬からチケットを受けとる。
内容としては、まあ基本は犬と飼い主の絆で、そっから飼い主が死にかけたり犬が奔走したりと、なんかそんな感じだった。普段の俺なら間違いなく寝るんだろうけど、つい二日前に愛犬を失っていた俺は寝ることができなかった。
涼太を思い出してやるせない気持ちになる。黄瀬は何を思ってこの映画をチョイスしたんだ。隣では黄瀬がぐすぐすいいながら見てたけど、俺は途中から内容が全く頭に入ってこなくなってしまった。
どんよりした気分で映画館から出ると、黄瀬が美術館へ行きたいと言い出した。こいつに芸術の気があるだなんて知らなかったが。

「芸術をたしなんでると、感性豊かな人間になれるんスよ。昔っから行きたいとは思ってたんスけど、時間がとれなくて」
「お前、わかんの?」
「んー…絵に込められてる思いとか、伝えたい愛情くらいなら感じられると思うッス」
「ロマンチストか」

俺が笑うとやっと笑ってくれた、と黄瀬も笑う。目敏く俺の気分を察知していたようだ。こいつを見ていると嫌な出来事を忘れそうになる。昔からこいつが場にいると雰囲気が和やかになっていたのを思い出す。
案の定、美術館で見た絵の良さは俺も黄瀬もさっぱりわからなかった。なんだこの落書き。しつれーッスよ青峰っち。俺でも描けるわこんなん。青峰っちはこれさえも描けないでしょ。静かな美術館で笑ってたら警備員に注意された。謝りながらその出来事にさえ笑った。
時々、そういえば涼太は絵を見るのが好きだったな、なんて思い出した。雑誌を見ていると必ずそういうページを凝視する。でも涼太のことを思い出しながらも、黄瀬と過ごす時間は楽しかった。

冷やかしとも思われない行動をして美術館を出ると、外は暗くなり始めていた。町の外灯がポツポツと灯り、暗いコンクリートを照らしている。
黄瀬は、青峰っちが喜ぶところに連れていってあげる、と俺を引っ張って人通りの少ない路地に入る。
外れに出ると、高く聳えるストバスコートが姿を現した。

「…もしかして、バスケやんの」
「青峰っちとは、大学卒業した辺りからやってないッスね」

雪は未だに降ってないとはいえ、刺すような寒さのなか、バスケをする気にはなれなかった。人間も俺達くらいしかいない。でも黄瀬は近くに備えてあったボールを手に取ると軽くシュートを決める。病気中のブランクがあったなんて感じさせないくらい、ボールは当然のようにゴールに吸い込まれていった。
振り向いた黄瀬の表情は挑戦的なもので、俺も思わず口角を吊り上げた。アイツがいなくなってからバスケとも疎遠気味になっていたが、結局のところ俺はバスケ馬鹿だった。
暑苦しい上着を脱ぎ捨てて、黄瀬と向かい合う。ボールが地面につく音だけが辺りを支配する。
黄瀬の腕は衰えていなかった(この人物が黄瀬だという確証はないから、衰えていないという表現は間違いかもしれない)。俺からボールを奪って、シュートしようとするボールを俺が奪う。やっていることは中学時代から何も変わらず、ただ俺達はボールを奪い合って遊んでいた。暗く広がる空にダム、ダムという音ばかりが響く。
ガァン、と俺がダンクを決めると黄瀬も同じようにダンクした。俺が体を捻って片手でシュートを決めると、黄瀬も同じ体勢で、全く同じシュートを放つ。相変わらずのコピー能力は厄介だが、互角に戦えるのは楽しかった。
昔の俺ならただ意地になってたんだろうなぁ。歳を取ったことを痛感する。

「っちょ、タンマ、やすませろ」

固い地面に倒れるように仰向けに寝転がると、黄瀬が顔を覗いてきた。

「バテたんスか」
「おりゃもうすぐ30のじじいだぞ。流石に何時間もぶっ通しはキツいわ」

これでも一応プロだったが、二年前から練習もあんましなくなった。個人的に体育館を借りてバスケはしていたものの、やはり体力の衰えは否めない。
黄瀬は少し不満そうだった。まだやりたいのだろう。唇を少し尖らせてボールを拾っていた。残念そうにしょぼんとする横顔が涼太にそっくりだと、唐突に思い出した。

「…一回くらい、青峰っちに勝ってみたかったッス」

呟かれた言葉が酷く寂しそうだった。
風が冷たくて、汗をかいている体には丁度良かったけど、俺は黄瀬が疲れた様子を見せないことを不思議に思った。黄瀬だって俺と同い年の筈だ、……。

(あれ、黄瀬って死んだんじゃなかったっけ…)

そんな思考が浮上したけど、そうなると目の前にいるこいつの存在の説明がつかなくなる。俺は忘れることにした。

「…うちくるか?」
「なんスかそれ、誘ってんスか」
「何でそうなんだよ。時間も時間だし、飯食ってくかって聞いてんだ」

黄瀬は苦笑した。いらねッスよ、とボールを回す。

「…青峰っち。ありがと。楽しかったッス」
「……俺も楽しかったよ。お前とバスケなんて、もう二度とできないと思ってたし」
「違うよ」

「今までずっと、ッス」

黄瀬の指が俺の手のひらに触れた。凍りそうなくらい冷たいそれは、けどとても懐かしくて、声が出せなかった。
近付いた顔があまりにも綺麗で、なんてくっせぇことを言うのは似合わない。

「中学でアンタに憧れたときから、高校でアンタと本気のバスケをしたことも、悔しかったけど。大学進んでまた1on1する機会増えて、アンタに会ってから世界がつまらなくなくなったんだ」
「俺は、アンタがずっと好きだった」

黄瀬は俺にキスをした。
俺が驚いたのはそれをされたことに対してではなく(キスをされたことにも相当驚いたのだが)、押し付けるだけのキスが涼太のキスによく似ていて、額にかかる黄瀬の髪の毛の感触もまるで涼太だったからだ。
柔らかくて冷たい唇は貪るでもなくただくっついてるだけで、でもなんだかふわふわと浮いてるみたいな不思議な気分になった。

「涼太?」
「うん」
「…黄瀬?」
「うん」
「なあ、お前は涼太なのか?それとも黄瀬か?」
「俺は、黄瀬涼太ッスよ」

青峰っちが大好きな黄瀬涼太ッス。黄瀬としての俺も、涼太としての俺も、青峰っちが好きだったことに変わりはないから。
黄瀬が離れた代わりに、白い粒が降ってきた。
ぽたぽた。ゆらゆら。黄瀬の涙が俺の頬に降ってきたのと空から雪が降ってきたのは同時だった。

「できるなら、もっと一緒に居たかったし、もっと遊びたかったし、話したいこともたくさんあったけど、叶わないから」
「もっとアンタと生きていたかったよ」

黄瀬が立ち上がった。ボールがバウンドして地面に落ちる。
背を向ける黄瀬に何か声をかければ良かったんだろうけど、金縛りみたいに口が動かなかった。言葉が出てこない。

「ずっと愛してたよ、青峰っち」

じゃあね、と黄瀬は走り出した。路地を抜けて人混みに紛れて見えなくなる姿を、呆然と見送った。
体を起こすと、寒さが堪えた。こんな真冬にタンクトップの馬鹿なんかいない。上着を着なければ、寒い。

「………き、せ」

ボールの向こう側に黄瀬の着ていたオーバーコートが落ちていた。
夢じゃない。夢じゃなかった。

「…黄瀬」

路地の向こう側から、クリスマスソングが流れてくる。
涼太が死んでしまった時に流れなかった分が溢れてくるように。
俺は黄瀬が死んでしまった日以来に、泣いた。


20121110

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