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2026年06月13日
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ご褒美

2010年01月17日

現代パロ。

女性向け。しかも長い。






「……さっきと同じところを間違えてるじゃないですか!何やってんですか!」
「ええぇ!そんな馬鹿な!」

広い一室。さっぱりと片付いている小綺麗な部屋だが、二人の人間が向かい合って座っている机の周りは、参考書やらノートやらが散らばっている。その部分だけは、流石に綺麗とは言い難いだろう。
部屋の中心に設置されてある丸い机。机の下の周りだけでなく、机の上も割とカオスな空間だ。散らばっているプリントには、たくさんの計算式。その中の一つの間違いを指摘され、アスベルは嘘だと言わんばかりの顔でプリントを凝視していた。間違いを指摘した張本人・ヒューバートは、そんな兄の姿を見ては、ふぅと溜息をついていた。

「まったく…弟に間違いを指摘されて恥ずかしくないんですか?」
「うぐぅ………。」

痛恨の一撃で、アスベルは縮こまる。

あと三ヶ月少しで、兄・アスベルの大学入試があるのだ。今まで、普通に、真面目に高校生活を過ごしてきていた筈だったのだが、どういう訳か勉強の方があまりよろしくない(それはアスベルが部活にばかり気合を入れてきていた所為なのだが)。基本は分かっているが、応用されるとてんで駄目になる。
そこで、弟に勉強を教えてもらっているのだ。弟・ヒューバートは、普通に頭が良い。流石に一つ上の学年の問題は分からないが、ヒューバートが教えているのは高校問題の基本を応用した問題、つまりアスベルの苦手なもの。ヒューバートは応用に強い。「どんな問題が出ても対応できるように」らしい。何とも用心深い。
アスベルは正直、大学は落ちても何とかなるかなぁと気楽に考えている。でも、せっかくヒューバートが教えてくれているのだ。落ちたくても落とせない。ここで不合格だったら、今回で愛想を尽かされるんじゃないか。そう言う考えもあって、アスベルは必死こいて勉強しているのだ。

しかし何回も同じ場所を間違えて、同じように指摘され、とうとうアスベルは机に突っ伏したまま動かなくなった。
流石のヒューバートも、「何やってんですか、起きてください」とは言えなかった。何だか本当に気の毒になってくる。兄をこの状態に追い詰めたのは自分かもしれないという事は置いておく。
少しばかり責任を感じて、ヒューバートは何とかアスベルを起こそうと、トントンと肩を叩く。

「兄さん、起きてください。あとちょっとですから、頑張ってください。」
「うん……俺、頑張るよ……。」

弱々しい声が少しばかり聞こえた。それでも、頭を上げる様子はない。これは相当に凹んでいるなぁと考えながら、どうしようかと頭を巡らせる。
元はと言えば、自分が追い詰めた所為だ。何とかしなければ。
単純な答えが浮かんだ。

「兄さん。」
「……大丈夫、俺はがんばる……」
「プリント一枚が90点以上だった場合、ご褒美としてぼくが兄さんの言う事を何でも聞きます。」
「え。」

予想外の弟の言葉に、アスベルはガバリと顔を上げてポカンとした表情になる。
これで、兄も少しはやる気上がるんじゃないか。さんざん自分を馬鹿にした弟が、90点取れば何でも言う事を聞く!これは90点取ってぎゃふんと言わせなければ!
というヒューバートの考えである。

「ほんとに、何でも言う事聞くのか?」
「ええ、本当ですよ。なので頑張ってください。」
「わかった。絶対だぞ。」

やる気が上がって、再び机に向かって熱心にプリントに取り組み始めた兄に、ヒューバートは満足した。同時に後悔もした。この様子なら、確実に90点取ってくるかもしれない。本気の兄の底力はすごいのだ。そう考えると、「何でも言う事を聞く」じゃなくて「アイスを買ってくる」の方が楽なような気がした。変なことを要求されたらできる気がしない。逆立ちで家の中一周とか言われたらどうしようか。
これから起こる自分の惨事を想像していると、いつの間にそんなに時間が経ったのだろうか、アスベルが「終わった!!」と嬉しそうに叫んだ。
現実に戻って、兄の手元を確認する。あれ?この短時間で二枚もできたのか。やはり兄の底力は凄まじい。尊敬するが、同時にこの野郎とも思う。
赤ペンを持って、答案にマルを付けていく。その間は静寂だったが、アスベルが自信満々な顔をしていたのがヒューバートには分かった。

「…………。」
「どうだ?ヒューバート。」
「………95点と、92点、です。」
「やった!!」

アスベルは拳を握って本当に嬉しそうに笑う。
ああ、やっぱり。ほんとに逆立ちで家の中一周を覚悟した方が良いのだろうか。

「じゃあ、ヒューバート。」
「……はい、約束ですからね。何でもどうぞ。」
「俺にキスしてくれ。」
「はいはいお安いご用で……………は?」

ヒューバートが聞き返しても、アスベルは期待の眼差しで見るだけだ。
キス、とは、どういうことだろうか。ヒューバートはぐるぐると考えを巡らせる。そもそも何故ぼくが…?キスってそういうあれだったっけ…?と、考えているうちに、アスベルが「まだか?」と急かすように言う。何でこの人は普通に言えるんだろうと思いながら、ヒューバートは少し躊躇ったあと、アスベルの額に唇を寄せた。
ちゅ、という可愛い音はしない。少しとん、と触れて、すぐに離れた。一気に恥ずかしさが込み上げて来て、ヒューバートの顔は真っ赤になった。今自分はかなり情けない顔をしているだろうと思っていたが、自分よりもアスベルの表情が気になった。
すこし、不満そうな顔。小さく「なんだよ、おでこか…。」と呟く声がして、しかしヒューバートにははっきり聞こえた。途端に顔が熱くなる。

「なんだよって……額意外に何処にしろというんですか!」
「それは一か所しかないだろ!口だよ口!口にしろよ!」
「嫌です!絶対に嫌です!」
「何でも言う事聞くんじゃなかったのか?ヒューバートが嘘付いたー。」
「ぐ……っ」

自分で言った事を曲げるわけではない。しかし、口にするというのはどうも抵抗がある。自分の兄はどうしてこう恥ずかしいことを平気でしようとするのだろうか。
赤くなった顔を隠すように、指でかちゃりと眼鏡を上げる。

「…まぁとにかくっ、まだプリントはありますよ!さっさとやって下さい!」
「ヒューバート、俺はプリントを二枚仕上げたんだぞ?」

しまった、とヒューバートは思う。アスベルが、悪戯を思いついた子供のような顔をする。アスベルは確かに二枚のプリントを仕上げていた。ヒューバートは、「プリント一枚が90点なら言う事を聞く」と言っていたから、二枚終わったイコール二回言う事を聞かなければならない、ということだった。
次はどんな事を、と、ヒューバートが警戒していると、アスベルは意外にも、

「じゃあ、そこから絶対動くな。一歩もだぞ。」

何を考えているのかは謎だったが、キスをしろとか逆立ちしろよりは簡単だ、と思い、「わかりました。」と、その場に正座をする。正座に特に意味はないが、なんとなく、だ。
すると、アスベルが徐に近づいてきて、ヒューバートの目の前でしゃがみ込んだ。不思議に思い、兄の名を呼ぼうとした。次の瞬間、ヒューバートはアスベルに思い切り抱きしめられる。驚いてアスベルを押し退けようと手に力を入れる。すると耳元で「動くな。」とアスベルが呟いた。何故だか動きが止まってしまう。
アスベルは満足そうに頷くと、ヒューバートの頬を両手でがっちりと挟む。

「兄さ………」

唇が塞がれ、言葉は最後まで出なかった。






「ヒューバート!このプリントも96点だったぞ!」

アスベルの軽快で楽しそうな声が部屋に響く。
さっきと立場は逆転して、今度はヒューバートが机に突っ伏している番だった。さっきのアスベルと確実に違うところは、顔がずっと真っ赤だという部分だろう。

「ヒューバート!ほら、ご褒美!何でも言う事!」
「…………ほんとに勘弁して下さい…………。」

泣きそうな声で、ヒューバートが呟く。
時間を戻したい。軽々しく「何でも言う事を聞く」なんて言った自分を殴り殺したい、と、切実にそう思った。



――――――――

今までで一番長いんじゃないかなぁと思う。ほんのちょっとアスベルさんが黒いですね。
アスヒュではアスベルさんは自重を知らなければいいと思います。良いぞもっとやれ!!
アスベルはご褒美のためにがんばるし、ご褒美を貰ったらもっと頑張るのでどっちにしろヒューバートに逃げ道はありません。
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