忍者ブログ

[PR]

2026年06月13日
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

(P4:主→←完)

2012年06月01日

先輩が暴力沙汰を起こしたとかなんとかという噂を聞いて驚いたのは俺だけではなかった。
里中先輩も天城先輩も、そんな筈がないと顔を青くしていた。りせも直斗も信じられないと首を振る。しかし花村先輩だけは知っていたかのように冷静だったのを見て、俺はなんとも言えない気分になる。
花村先輩曰く、最近の先輩は何かに苛ついているようだったという。無言で何かを睨み付けたり、物を蹴ったり投げたりと。でも絶対に人を傷付けたりしなかったという。当然だ。先輩は優しい人なのだから。
それなのに、募った苛々がとうとう人間を害してしまったらしい。
先輩に何があったのか知りたかった。悩みがあるのなら相談に乗るのに。俺は馬鹿だから相談相手としては不足しているが、先輩の力になりたいと思う気持ちは負けない。
そう思って謹慎中の先輩に会いに行ったら。

「…俺の苛々の原因って、お前なんだよねぇ」

なんてことを言われたので普通にショックだった。
知らずの内に先輩の気に障ることをしたのだろうか。スミマセンと悄気ながら謝ると、先輩も俺に謝ってきたのだ。

「ごめん。お前はなんにも悪くないのに。俺が勝手に苛ついてるだけなんだ」

力無く笑うその人の指は傷だらけだった。絆創膏がたくさん。
この人の指が傷だらけになっていい筈がない。

「苛ついてンなら、俺を殴ってくださいよ。俺丈夫だから、全然耐えられますよ」
「馬鹿、お前に手を出したら意味ないんだ」

人を殴った手は、俺の頭を驚くほど優しく撫でる。こんなに優しい人を、俺に優しくしてくれる人を俺自身が苛つかせてる。すごくいたたまれなくなった。
すみませんでした。自分でも予想外に弱い声で呟くと、やっぱり先輩は首を横に振って、お前のせいじゃないんだ、ごめんよ完二と謝り返される。
ふ、と先輩は息を吐いた。少し切なげに目を揺らして、指を俺のピアスに掠める。くすぐったいなと思ったけど、何もしなかった。

「…ねえ完二。俺ねえ、お前が好きだよ。誰よりも何よりも」
「でもねえ、お前は俺を敬愛以上に見てくれない」
「それがどうしてももどかしくて腹立たしくてね。俺の想いが届かなくて悲しくてね」
「発散させないとなんにも悪くないお前を傷付けてしまうと思って」
「…ごめんね。自分勝手で。お前はなんにも悪くないんだよ。だからお前は謝らなくていいんだよ」

もう帰りなさい。
そう言われたのに、俺の足は動くことをしなかった。困ったように眉を下げる先輩。俺は酷い後悔に襲われた。
そのまま勢いだけで先輩の目を手のひらで覆う。目の前の人はいきなりの俺の行動に変な声を出す。

「な、にするの」
「先輩、泣きそうな顔してっから」
「そんなことないよ」

そう言う先輩の声は心なしかひきつっている。心臓の奥から込み上げてくるものを押し込めて、俺は手のひらに力を入れた。

「泣かないでくださいよ」
「泣いてないってば」
「憧れの先輩がピーピー泣いてんのは見たくない」
「…失望?」
「先輩が泣いてるとつらい」
「…」
「俺を傷付けたくないって思うなら、ひとりで傷付いて泣いたりしねーでください」
「泣いてないってば…」

俺の手をきゅうと握りながら、先輩は口の端をほんの少し上げた。
それから小さい声で呟く。何で俺を好きになってくれないのかなあと。

俺が先輩を好きじゃないわけがないのに。
普通の好きでは先輩は満足しない。昔からそれはわかっていた。
ずっと前から先輩は特別だった。普通と言うにはこの人の存在は大きくなりすぎてしまった。
伝わっていないことが悔しかったのだ。先輩が大好きなのに、当の本人に伝わってないことが。
というか、多分。

「俺は先輩のことすごい好きです」
「……お前は優しい子だね」

先輩自身が俺の思いを否定しているということに、この人は気付いていない。俺を好きだと豪語するのに、俺の好意を認めようとしてくれない。
それがこの上無く悔しくてムカついて、でもどうしようもなくて、泣きそうになることしかできなかった。


20120601


――――――――

うちの番長こんなんばっかり
PR
Comment
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字