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2026年06月13日
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One way of eternal(雨→織→一→雨)
2012年01月27日
雨→織→一→雨の完全一方通行な話
誰も幸せじゃないよ
誰も幸せじゃないよ
明日告白するのだと、僕の目の前の女の子は言った。
何故それを僕に言うのか、どんな言葉を期待してるのは分からなかったけど、僕は一言「頑張ってね」とだけ言った。
その声が自分でも分かるほどに覇気がなくて、でも彼女はそれに気付いてなかった。気付かれなくてよかった。
彼女はありがとうと、何故か少し寂しげに笑った。どうしてそんな顔をするのだろう。彼女はずっと恋焦がれていた人間に思いを告げるのだ。彼が彼女の思いを無下に扱うとは思えない。だって、彼女はとても素敵な人だから。
紡ごうとした言葉は、喉がからからで出てきてくれなかった。
「ふられたんだ」
僕の隣には目付きの悪いオレンジ色の髪を持ったクラスメイトだ。当然、いきなりそんなことを言われた彼は目を丸くして驚いた。
僕は彼女の思い人を知っていた。隣のこの男だった。
「ふられた、って…お前、好きな奴居たのかよ」
「…好きって言うか、一番大切にしたいなぁって思ってた子が居た」
「………他に、好きな奴がいる、って?」
「いや、直接的に告白をしたわけじゃないさ。ただ…彼女が、明日告白をするんだって」
そう言うと、彼は――黒崎は苦い顔をした。
「まだふられたわけじゃねーじゃねぇか」
「同じことさ。だって僕は、相手が彼女を拒まないって分かってるから」
何で僕は黒崎にそんな話をしてるんだろう。諦めた原因はこの男だというのに。
別に付き合いたいとか一緒に居たいとか、そういう事を考えていたわけじゃない。彼女が幸せになれるなら僕は簡単に身を引けるし、彼女の恋だってずっとずっと応援してきた。
だけど、いざ彼女が自分の目の前から離れていくと感情が流れていく。ああ結局僕は彼女の幸せじゃなくて僕の安穏が大事だったのだ。
自嘲気味に笑うと、黒崎が何か言いたげに此方を見ている。どうして黒崎までそんな顔をするのだろう。明日お前は、世界で一番の幸福者になれるというのに。
でも黒崎は何も言わなかった。良かった。彼は人に感情移入しすぎる人間だ。沈んでる僕を可哀想とでも思って慰めの言葉を吐いたら一発殴ってやろうと思っていた。
もう一回黒崎を見ると、やはり辛そうな顔をして今度は夕日を眺めていた。
翌日、俺は井上に告白された。
朝の屋上、誰も居なくて冷たい風だけが通り抜ける侘しい場所で、井上が俺に好きだと言ったのだ。
俺の答えは、
「……ごめんな」
それだけ短く答えると、井上は分かっていたとばかりに笑った。その笑顔は、普段のあいつの誰にでも好かれるような綺麗な笑顔じゃなくて泣きそうな笑顔だった。
その顔をさせているのは俺なのに、俺の心は冷え切っていた。
そして思った。その顔が、昨日ふられたと話していた石田の表情とよく似ているなと。
「……一つだけ、聞いてもいい?」
「…ああ」
「あたしをふった理由、教えてくれる?」
臆面もなくそんなことを言ってるが、相当に傷付いているんだろう。声を震わせながら必死に言葉を紡ごうとしているその姿が俺には辛かった。
「……俺の好きな奴が、昨日ふられたって悲しんでた」
何となく気付いていた。石田が好きだった人間。
気付いてしまっていた。俺も遠回しにふられてしまったのだと。
「あいつを置いて俺が幸せになることが、俺には許せねぇんだ」
あいつの瞳はいつも同じ人間を映していた。俺のことなんか映しちゃいない。
でもそれでいい。俺は俺の目にそいつを映すだけで幸せだった。
あいつが悲しむというのなら、俺だって幸せなんて要らなかった。
井上は暫く黙って、それからありがとうと笑ってくれる。
礼を言いたいのはこっちだ。こんな俺を好きでいてくれたことが嬉しかった。
一足先に教室に戻ると言って小走りで屋上から出て行った井上を尻目に、俺は今日という一日が本気で憂鬱だと感じていた。
井上が戻ったら、きっと石田は結果を気にするだろう。自分から聞きに行くような奴じゃないけど、井上の姿を見れば俺がふったことは一目瞭然だ。そしたらあいつは激怒するだろう。井上の気持ちを大切にしなかった俺に。お前を優先させた俺に。
ああ、でもこれで。
石田の瞳に俺が映ってくれる。
俺は最低だ。
その日のあたしは殆ど上の空だった。
辛くて苦しくてしょうがない筈なのに、不思議と涙が出なかった。
分かっていたから、だと思う。
黒崎くんがあたしを拒むことも、黒崎くんの好きな人も、石田くんの気持ちも。
教室がざわめきだしたのは、いつもの二人が喧嘩をし始めたから。
多分理由はあたしのこと。
黒崎くんに詰め寄る石田くんはとても怒ってる。
石田くんはあたしを大切にしてくれた。
でもあたしはそんな優しい石田くんの気持ちを押し込めて、黒崎くんへの自分の思いを優先してしまった。
結局、石田くんがあたしを大切にしてくれる気持ちも、黒崎くんが石田くんを大切に思う気持ちも、踏みにじったのは全部あたし。
本当は告白する気なんてなかった。ただ友達として、ずっと傍に居たかっただけなのに。
黒崎くんの目は驚くくらい優しく一人を見つめる。多分無意識なんだろうけど、それくらいには愛しいって思っていたんだろう。
あたしは視線の先にヤキモチを焼いていた。彼の視線を独り占めしてしまう、優しい人を羨ましいと思ってた。
だから、あたしが石田くんに告白をするって伝えたのは、一種の牽制だった。
あたしは本当に馬鹿だった。目先の自分にしか興味がなくて、あたしを一番大事に思ってくれてた人を傷付けてしまった。
黒崎くんのふられたのはきっと罰が当たったから。
どんなことがあっても、たとえ石田くんに好きな人が居たとしても、黒崎くんはずっとずっと石田くんのことを思い続けるんだろう。
羨ましいと思うより、敵わないなぁと思う方が早かった。
教室の真ん中で繰り広げられる暴言の言い合いを聞きながら、今だったら泣けるかなって思った。
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