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2026年06月13日
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(蜂:恩田と漆原)

2011年08月24日
「にゃあー」

声のした方向を見遣ると、猫を抱えている男が一人。
それは紛うことなく私の仕えている人物で、しかし彼の突拍子もない言動は日常茶飯事だったために私は余計なリアクションはしない。
その人は私をじっと見つめている。何かを伝えたいのかは分からないが、流石に私も言葉がないと彼の思考を読むのは不可能だ。いや、喋ったら喋ったで思考などまるで読めないことは分かっている。
彼は只管ににゃあ、にゃあと猫の鳴き真似をして私を見る。時折猫の腕を持ち上げてゆらゆら揺らしたり、掌を広げてみたりと、ジェスチャー付きで。
私は読んでいたスケジュール帳を閉じて、何ですかと声を掛けた。
この人を無視するなどということは許されないのだ。何しろ子供のような性格だから、すぐに拗ねてムキになってきっと拳銃を乱射し始めるだろう。それ以上に厄介なことだなんてきっとこの世に存在しないと言い切れる程にだ。
当の彼は、楽しそうな声色で上機嫌気味に話し出す。

「にゃー」
「………」
「にゃー。恩田ちゃんはにゃんこの呪いに掛けられてしまったためにゃん語しか話せなくなっちゃったにゃー」

どうやらそういう設定らしい。
大変だにゃー?と言いながら恩田さんは猫の頭に顔を埋める。恩田さんは動物には優しい。優しいと言っても人間の私達と比べては態度が柔らかいといっただけなのだが。
そもそも彼に優しいと厳しいの境界線があるのかさえ怪しい。彼にとってはそんな感情全て同じもので、そして下らないものなんだろう。
でもきっとこの人は動物が好きなのだろうと思う。この前も犬と戯れていたし、捨てられた犬猫に同情からか餌を買ってくる。そのときの顔は酷く無邪気で、本当に何を考えているか分からない人だと常に感じている。
恩田さんに抱えられている猫はお世辞にも綺麗とはいえなかった。また何処から拾ってきたのか知らないが、栗色の毛は遠目から見てもふわふわとは言えない。ところどころ泥で汚れているし、先程から思っていたが猫の毛が辺り一面に散らばっているのだ。
元から綺麗とは言えないこの部屋に今更猫の毛の十本や二十本、あまり変わりはないだろう。しかし、恩田さんはそれを嫌う。動物にはあれほど優しいのに、猫だって胸に抱いて頭を撫でながら寝てしまうくらいなのに。
部屋に毛が一本でも落ちてると、途端に不機嫌そうな顔になる。
何かこだわりがあるのだろうか。別に知りたいとは思わないが、どうにも不思議だ。
そんなことを思っている間にも、相変わらず猫語なる新しい言語を作って猫との会話を図り始める彼は、端から見ればただの無邪気な子供でしかない。

「…恩田さん。これからの予定が…」
「にゃにゃー!にゃんこ語以外今の俺には通じないにゃー!」

つまり聞きたくないらしい。統率力はあるのに本人はこんなにも面倒くさがり。耳を塞ぎながら猫に同意を求める恩田さんを見て、一つ溜息が零れた。勿論恩田さんに気付かれないように、こっそりと。
別にこのまま放置することも可能だが、これから大事な仕事がある。彼も大事だと言うことは理解してるとは思うが、何せ全て気分でものを決める人だ。仕事だ職務だ関係なく、やりたくない日はやらない。面倒くさい日はやらない。
しかし無理矢理引っ張っていくことは出来ない。出来る筈もない。
無言になった私にちらりと目を向けて、恩田さんは独り言のように猫に向かって呟いた。

「にゃんこの呪いを解くにはー、ウルちゃんからのちゅーが必要なんだにゃー?」

にゃー?と首を傾げると、恩田さんは同じように猫の首を傾ける。
目が合うと、彼は子供のような顔で楽しそうに笑っていた。
それはまるで挑戦しているような、誘っているような。揶揄っているような。
本気なのか遊びなのかなんて分からない。それも全てこの人の気分で決まる。きっと全て遊びなんだろうとは大方予想できる。彼に本気などと言う言葉は要らない。必要がない。
だからこの人の言っていることを、本気で捉える必要はないのだ。
彼の指からそっと猫を奪い取って、そのまま彼の唇に唇を落とした。猫を失った右手は不自然に宙に浮いたまま、別に私の服を掴むとか抵抗するとか、そんなことは一切しない。
これは本人が望んだことだから。

「呪いは解けましたね」
「………にゃーーーー」
「三十分までには車を出すので、それまでに準備しておいてください」

猫を地面に降ろすと、それは一目散に何処かに駆けていった。あとで掃除をしておかなければ。
恩田さんは少しだけ不満そうな表情をしていたが、まーいっか、とだけ呟いてソファに寝そべらせていた身体を漸く起こした。
一張羅のコートには猫の毛が大量についている。それを落とすこともせずに、ポケットに手を入れてスキップに近い形で歩き出す。

「恩田さん、コートを猫の毛を…」
「いーらないっ。たまにはこんなのも良さげじゃーん」

笑う顔はやっぱり子供に近く、でも考えることは子供の容量を超える。
歩きながら猫の毛をぱらぱらと地面に落としていくのをその姿を見つめて、ああこれは一応新しいコートも準備した方が良さそうだと思った。


――――――――

何が書きたかったのかはわたしにも分かりません
でも言いたいことは恩田ちゃん超可愛いってことです
恩田ちゃんは動物好きそうだけど、動物の毛だけ見ると「うわっ汚い」って思う人種だと思う
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