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2026年06月13日
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忠誠心

2011年04月17日

自分が剣であることが、これ程までに悔やまれることは無かった。



がしゃん、僕は床に投げ出された。痛みなんかは感じない。僕は、剣だから。
剣越しから見える、僕にとっては我慢がならないくらいに怒りを覚える光景。
黒いローブに身を纏った人間共の中心に、倒れた我が主の姿。
こんなとき、僕は動きたくても動けないのだ。なんて言ったって、僕はただの剣だから。
それなのに、僕のマスターは投げ出された僕を素早く、しかし大事そうに拾ってくれた。そして目の前の人間共を睨みつける。まだ十代の少年とは思えないくらいの、厳しく冷たい眼。
僕のために怒ってくれている。僕は痛みも感じないし、特別なものだから傷だってそうそう付かない。
それなのに、乱暴に投げ出された僕を、優しく拾ってくれる。

目の前のローブの男が、何か小さく呟いた。
空気が張り詰め、男の指が禍々しく光る。何かを確認する前に、いや、確認する瞬間さえも与えず、黒い光が坊ちゃんの目の前で爆発した。
坊ちゃんは背中から壁に打ち付けられて、小さく呻いて膝を突いた。

『坊ちゃん!!』

僕は叫ぶことしか出来ない。僕は自分の意思では動けない。僕は、使われるだけの道具だから。
それでも、坊ちゃんは僕を腕に抱いてくれたまま。僕を守るように、護るように。
僕は剣なのに。守るべきなのは、マスターである貴方なのに。
ローブの男は坊ちゃんを見つめて嘲笑う。
ああ、殴りたい。殴るだけじゃ済みそうも無い。僕の主を侮辱したこの男を、この手で殺してやりたいのだ。
しかし、やはりそれは叶わない。

悔しい。悔しい。
僕に生身の身体があれば、などともう何百回思っただろう。千年前のような、あんな身体が。
僕みたいな貧弱な身体でも、きっと坊ちゃんを護る盾くらいにはなれたのに。坊ちゃんを馬鹿にする人間を、この手で思い切り殴ってやれるのに。
どうして僕には力が無い。どうして僕には身体が無い。どうして、どうして

ローブの人間が扉を開ける。
向こうに居る人物を見て、坊ちゃんの顔色と表情が変わる。
ああ、彼女まで握られてしまった。坊ちゃんが唯一愛した、たった一人の女性が。
坊ちゃんがローブの男に跪く。その表情は悔しそうに、それでいて憎悪と悲しみに歪められた何ともいえない顔。僕のマスターがこんな顔をして良い筈が無い。これからなのに。これから、坊ちゃんの未来は明るい兆しが見えていたのに。
ローブの男が卑しく笑う。
僕が睨んだところで、誰一人と気付かない。
ローブの人間が部屋を出た。残されたのは僕と坊ちゃんだけ。
シャル、と小さく名前を呼ばれ、僕は返事をする。

「これが……僕の運命なのか」

自嘲気味に笑うマスターを見ていられなかった。
まだ幼く、それなのに気丈に振舞おうと他の人間を避け続けてきた我が主。
『彼』と旅をして、少しずつ変わってきた坊ちゃんの希望が、こんなところで粉々にされる。
ああ、これから起こることが予想できてしまった。
きっとこれが、僕達にとっての最大の悪夢だろう。
だから、僕だけは、ずっと坊ちゃんの傍に居よう。
全ての人間を敵に回そうと、僕は、ずっと。いつでも、どんな時でも。
それが、ただの剣である僕の最大の役目だと思った。

『僕は、ずっとずっと坊ちゃんと共に在りますよ』

僕のマスターは、年相応の、ぎこちなくも可愛らしい微笑みを見せてくれた。


――――――――

あのときのシャルティエは、一体どんな思いでボロボロにされるリオンを見ていたのだろうか

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